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2003年09月29日(月) 年下の男(前編)

仲良しの同僚が年下の男性と付き合っていることは知っていた。彼女がしばしば口にする「彼とは世代が違うから」をせいぜい三つか四つの差だろうと思い込み、いままで尋ねもしなかったのだが、その年の差が十四と聞いてびっくり。
付き合って四年になる彼は、今年二十五歳になるという。思わずインターネットで出会ったのかと訊いたら、「そんなわけないやん」と一笑に付された。そうか、そんなわけはないのか。若い男性と知り合う場というとそのくらいしか思い浮かばない発想の貧困さが恨めしい。そのころ勤めていた会社に彼がアルバイトで来ていたのだそうだ。
いまどき姉さん女房なんてめずらしくもないし、実際五つくらいの差はなんでもないのだろう。が、それだけ離れていたらどうなんだろう。
「相手がお金持ってないってこと以外でとくに不都合はないよ。中途半端に二つ三つ違うより、このくらい離れてたほうが心の平静が保てるからかえっていいわ」
「心の平静?」
「『私と結婚する気はあるの?』ってことに悩み苦しまずにすむでしょ」
四十歳の誕生日を目前にした彼女は結婚に興味がないわけでもなんでもなく、「縁があったら……」と思っているどこにでもいる女性である。その彼女が「この先彼が結婚するとしたら、相手は私じゃない」ときっぱりと言う。
付き合いはじめたのは彼が成人して間もなくのこと。そんな、人生まさにスタートしたばかりの相手にいったいなにを求めることができるだろう。結婚をゴールに設定できないことは、彼とはじまったときから納得していたから、いまさらつらいだの寂しいだの思うことはない。そういう意味で「可能性ゼロ」に自分は救われているのだ、と。
私は独身のころ、結婚の可能性がない相手とは恋愛をする気にならなかった。「これ以上時間を無駄にしたくない」と別れたこともある。私はその恋愛が本物であるかどうかを、結婚にたどり着くか否かで測っていた。
それから私も少しは大人になり、いまでは結婚という名のゴールテープがなくても嘘偽りでない恋が存在することを理解している。そして、彼女が「そんなのはじめからわかってたことだしね」という境地に達するまでに、人知れずたくさんの涙を流してきたであろうことも。
人はそんなに簡単になにかをあきらめたり悟ったりすることはできない。(後編につづく)

【あとがき】
結婚というゴールを目指さない恋もこの世には存在する。長くは持たない恋が本物ではないというわけでは決してない。あのころにはわからなかったことです。