うららか雑記帳
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2010年06月08日(火) 夜明け前のユメ


他人の見た夢の話ほどつまらないものはない、とよく言いますが、創作のネタになりそうな気がしたのでメモっときます。
というか、簡単な小説にしてみます。ざっくりと。



 個体識別コード【シュリザ】。
 人格OSを搭載した自律・常時起動の女性型アンドロイド。

イメージ画像

 電子工学の粋を極めて生み出された彼女にとって、『マスター』こそが唯一至高の存在。他の何者にも優先する永久の主。
 『マスター』は彼女の世界のすべてだった。

 *

 彼は優しい。
 いつも他の人間の心配ばかりして、困っている人がいれば躊躇わずにその手を差し伸べる。擬似生命体であるシュリザにさえ、ことあるごとに労わりの言葉をくれるのだ。
 シュリザが身を呈して外敵を退けた時もそうだった。受けた損傷は腕の擦り傷だけだったけれど、痛ましげに傷を見つめるマスターの目は、かすかに涙ぐんでいた。
 物柔らかで、人の好いマスター。
 彼の温かい掌が頭を撫でてくれるたびに、シュリザの感情回路に圧倒的な安堵感が広がる。高精度の学習機能を持つシュリザには、それが設定されたプログラムとは別の作用であることが分かる。人間が言うところの『陽だまりに包まれているような気持ち』。いくら大切に扱われたとしても、マスター以外の人間相手には抱くことのない感情だ。
 マスターが気にかけるから、シュリザは周囲の人間のためにも労力を惜しまない。
 彼のために在る。
 それが存在意義のすべて。
 今までずっと一緒に過ごしてきた。
 これからも共に時間をかみしめていきたい。
 シュリザのただひとつの願いだった。

 *

 幾人かの仲間と旅を続けるうちに、一行は地方の豪邸でとある少女と出会う。
 声を忌まれて喋ることを禁じられ、身内の手によって邸の奥深くに軟禁されていた娘。
 その娘と、マスターの視線とが触れ合った、ほんの一瞬。
 何かが動き始める小さな音を、シュリザは確かに聴いたのだった。
 その場に立ち尽くす彼女は、二人の微細な表情の変化を余すところなく網膜に映し取る。
 気遣わしげな眼差し。
 交わされる優しい言葉。
 ふとした偶然から噛み合った歯車は留まらない。音を立てて回り、未知の曲を奏で始める。

 騒動の末に少女は解き放たれ、一行は旅路へと戻った。
 だがしかし、後に思いもかけない形で少女は一行の前に再び姿を現し……やがて彼らの旅に同行することとなる。

 *

 マスターの意識が向かう先には、無邪気に喋る少女の笑顔。
 身体がひどく華奢であることを除けば、幽閉されていた翳りをほぼ感じさせない、明るく人懐こい振る舞い。
 少女は何の躊躇いもなく彼を名前で呼ぶようになった。
 ずっとシュリザの傍で食事をとっていたマスターは、いつしか少女と並んで食卓につくようになった。
 仲間たちはそんな二人をからかい、似合いの一組だと囃し立てる。揃って真っ赤になって、でも相手を拒む言葉はどちらの口からも出てくることはない。
 確かに二人はお似合いだ。それは客観的事実である。
 何くれとなく少女を気遣うマスターと、嬉しそうに微笑む少女と。
 二人の周りは本当の陽だまりのようだった。
 そうした様子を目にするたびに、シュリザの思考回路は微かに乱れる。
 ほんのわずか胸に宿る、小さな、棘。
 思考も情動も、所詮は情報処理ネットワークシステムの一部に過ぎない。シュリザのすべては機械部品とプログラムから成るのだから。
 精巧に造られた道具。
 それがなぜ、このような……
 シュリザはかぶりを振ったりはしない。余分な行動に動力を注ぐことを避けるのは自律型アンドロイドの基本性能だ。
 表面上は何ひとつ変わらぬまま時は過ぎていく。

 *

 わたしには バグが ある
 致命的な 欠陥が
 OSの漂白 再構築を

 *

 外敵の脅威は消えたわけではなかった。
 高性能の人型兵器たり得るシュリザに狙いをつけた、一人の男。
 主人と離れがちだったシュリザがその存在を認識したのは、イレギュラーな手段によって『気絶』させられ捕らえられた、その瞬間のことだった。



BGMはBuzy『鯨』。こんな感じの夢でした!


浜月まお |HomePage

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