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厚労大臣・柳沢伯夫氏が、2度あることは3度あるとばかりに失言を繰り返している。 先日放たれた舌禍3発目「工場労働者は、労働時間だけが売り物」を聞いた時、 さすがに呆れすぎて涙が出て来た(←アクビしすぎて…)。
柳沢厚労相に限らず、過去の失言政治家の事後の言い訳を聞くと必ず、 「発言の内容は、本意ではなかった」と云う。ま、事実そういう事なのだが、 (中には、発言の本意自体が間違えている場合もたくさんあるが…) このように、伝えたけれども本意ではない内容で相手に伝わってしまったという場合、 僕は「『伝える技術』が未熟だった」と思うのだ。
政治家に限らず普通の会社員でも、『伝える』という意味を勘違いしている人が多い。 自分の伝える行為が完了すれば、すべて完了したと思っている人が多い。 「伝える」ということは、意図した通りに相手に伝わって初めて完了するのだ。
自分では相手に伝えたつもりなのに、相手には違う内容で伝わっている。 もしくは全く伝わっていなかったりする。この原因は相手側にある場合も当然あるが、 伝える側にある場合が多い。特に、自分が伝えたい事を、『自分の言葉』で、 『自分のタイミング』で、伝えようとする人に多い。相手に伝わって初めて完了するのに、 『相手に分かる言葉』で『相手のタイミング』で伝えてないから伝わらない。 そういう人に限って、『何で伝わらないんだ!相手が馬鹿だ!』と憤慨しながら 伝わらない事を相手のせいにしたりするものだ。
芸術家や批評家やタレントならば別にいい。自分の言葉で放った時点で完結するからだ。 しかし、ビジネスや政治の世界は違う、自分が発信して完了するコミュニケ―ションはない。 ましてや、政治家は「弁」を商売道具として、国民に「伝える」ことが仕事である。 弁じた内容は本意ではなかった…という時点で、政治家としてどうかと思うのである。 伝えたい事を、どれだけ伝えたい相手の分かる言葉で伝える事が出来るか… これが、「伝える技術」だと僕は思う。
というわけで今回は、今をときめく舌禍大臣・柳沢厚労相の失言3本をとりあげて、 本当は何と云って伝えればよかったのか?…など、彼の「伝える技術」を検証してみたい。
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#1 「女性は生む機械」
■柳沢発言:出生率の低下に言及して
「機械って言ってごめんなさいね」「15〜50歳の女性の数は決まっている。 産む機械、装置の数は決まっているから、あとは一人頭で頑張ってもらうしかない」
◇発言後:講演後、発言の意図について
「人口統計学の話をしていて、イメージをわかりやすくするために、子供を産み出す装置 という言葉を使った」「(発言の後)すぐに、大変失礼なので、取り消して話を続けた」
「女性は産む機械」とは何事だーーーーーー!! と社民党も共産党もマスコミもその一点に大ブーイング。厚労相の言い訳もその点だけだった。 確かに、女性はもちろん男性が聞いても言葉選びにデリカシーのなさを感じたのは事実。 しかしそんな「ムカツクー!」的な指摘は小学生でも出来る。それよりも野党やマスコミは、 なぜもっと下記の点を指摘しなかったのか?!
「出生率低下を解決出来るのは、女性次第だ」 「出生率低下は、女性が頑張ってないから」
このように聞こえないだろうか? 当然、彼の発言の本意ではないかもしれない。 しかし、そのように聞こえてしまう時点で、弁を商売とする政治家として「伝える技術」のミスだ。 厚労相の発言としてこっちの方が問題ではないだろうか?真意を問いただすべきではないのか?
言い訳も稚拙甚だしい。「人口統計学的な説明を分かりやすく・・・」って、そもそも統計学を 持ち出している事がおかしい。話の前後が分からないが、講演の内容は「これからの展望」である。 「○人が○人ずつ生めば出生率が○になる…」なんて馬鹿でも分かる話より具体論を語ってほしい。
そうやって政治家は、統計学みたいな「引き」の視点でしか見れないから、 子供を持ちたくても持てない家庭の事情なんて分からないのだろう。
●こう伝えればよかったのに…
「15〜50歳の世帯の数は決まっている。限られた世帯に対して 我々が出来る事は、子供を持ちたいと思えるような環境をつくること。 そのうえで、ご夫婦で頑張っていただくしかない」
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#2 「子供2人持てば健全」
■柳沢発言:今後の少子化対策について
「若い人たちは結婚したい、子供を2人以上持ちたいという(希望を持つ)極めて健全な状況にいる。 若者の健全な希望にフィットした政策を出していくことが非常に大事だ」
国立社会保障・人口問題研究所が05年に実施した調査によれば、9割が「いずれ結婚するつもり」 と答え、希望する子どもの数は「2子以上」が85%にのぼるが、実際にはそこまで達していない ことを踏まえた発言。(朝日新聞 2月6日13時04分)
◇野党から「子供が2人以上いない人は健全じゃないのか」と批判。 発言の撤回を求められ…
「みんなが子どもを持ちたくないと意思表示をしたら、私は困ってしまう。 その言葉を撤回しなければならない理由が分からない」と述べ、謝罪や撤回については拒否。 (毎日新聞 2月8日9時53分)
これはま〜、辞任はもちろん、別に非難することの程でもないが、ムカツクことは確かだ。 もっとも、柳沢厚労相本人は、何故この発言が非難されるのかが分からないようだが…。
国語力の問題。事後のコメントで「私は困ってしまう」と云っている。分かる。それは同感である。 そうならば、「それが望ましい(と私は思う)」と、あくまで自己の希望や感想として伝えればいいのに、 「それが健全だ」と、相手に対して一定の評価を下しているように聞こえるからムカつかれているのだ。
「子供2人持つのが健全だ」という評価は、あくまで「国の事情」でしかない。 何人が健全なのかは個々の家庭の事情で違うわけで、それは今日の社会情勢とシナジーする問題だ。 それに「健全」という響きが分かっていない。一方を「健全」と云えば、そうでない方は「不健全」だ。 「持ちたくない人の事情も知らずに、国の事情で健全か不健全かを決めつける云い方は不適切」 という反応になる。それが全く分かっていない。政治家としての彼の「伝える力」に限界を感じる。
●こう伝えればよかったのに…
「若い人たちは・・・子供を2人以上持ちたいという希望を持っており、 とても望ましい状況であると思う。」
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#3 「労働時間だけが売り物」
■ホワイトカラー・エグゼンンプションに関連し、 生産現場で働く労働者について、
「工場労働というか、ベルトコンベヤーの仕事。もう労働時間だけが売り物です というようなところでなく、働いている方々の現実に着目した労働法制をつくることが課題だ」
◇「現場で一生懸命働いている方に失礼だ」と批判。 議事録からの削除を申し出るよう求められ…
「全体を見てもらえば誤解が生じるとは思わないが、『だけ』という表現が、 ある人々を傷つけるとの指摘なので、(削除が)可能かどうかを相談したい」 (産経新聞 2月19日15時17分)
痛い。稚拙な表現力である。言い訳で「『だけ』がいけなかったんでしょ?」と云ってるが、 とりあえずそれは正しい。「労働内容には価値なし」と云っているように聞こえるからだ。 しかし、いけなかったのはそれだけではない。もっとトータルな部分が問題だ。
発言全体に生産現場で働く工場労働者=いわゆるブルーカラーに対する差別的なトーンが 感じられるのである。おそらく「工場労働者であっても、その報酬は労働時間だけで 図られるべきものじゃないはず」と云いたかったのだと思うが、「ベルトコンベヤーの仕事」とか 「労働時間だけが売り物」などと、引っ掛かる言葉が存在するために本意が伝わりにくいはず。
●こう伝えればよかったのに…
「工場労働でも、業務精度を保ちつつ作業を継続させる自己管理は それはそれで大変である。労働時間だけで図るのではなく、 現実的な業務内容に着目しながら労働法制をつくることが課題だ」
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というわけで、1本1本の舌禍はともかく、さすが3本出そろうと圧巻。 柳沢氏には、とりあえず大臣を下りていただきたいと思う今日この頃。 厚労相の資質の問うレベルは既に突き抜けていて、政治家としての資質の問われている。
いや、待てよ。 政治家としての「伝える技術」が足らないのではなく、もしかしたら、 本意なのかもしれない。確信犯なのかもしれないと思えて来た。
こうして、女性しかり、我々労働者しかり、 社会的弱者を小バカにするような発言に見られる政府の性格は、 そのまま、安倍内閣の性格を現しているのかもしれない。
柳沢厚労相は、内閣に忠実に仕事をしているのかも笑。
070225 taichi
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