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昔、むか〜しの事だが『昭和』と呼ばれている時代があった。 さすがにその頃は 私も初々しい学生さんだったのである。
私が通っていた短大は、某国立大学の所有する 広大な農場の端っこに引っ付く ようにして建てられていたので しばしば付属施設かなんかと間違われていた。 或いは余り大きなキャンパスでは無かったので、幼稚園と間違われる事もあった。 だが教授陣には それなりの方々が名を連ねていた様に思う。 専任教授以外は皆 名誉教授の肩書きを持って居られた。つまりはかなりいい歳の 学者としての 地位と名誉がしっかりとあるお爺様先生が 言葉は悪いがちょっと したアルバイト感覚で教えに来られていたのでは無いかと思うのだ。 或る日、こんな事があった。当時70数歳であったが大変お元気な心理学のF教授が 授業中発言した生徒に向かって一言。「私はどうも女の子の、こう甲高い声が 最近聞こえなくなってね。悪いが全然聞こえなかったんだが」 突っ込んで良い物かどうか、迷った。発言した子も困っていた。 確かゆっくりと『低い声』で言い直していた筈である。 他にも、教壇でいきなり咳き込み、身体を丸めてずっと咳き込み続け、大教室中を 手に汗握る緊迫の渦へと巻き込んだ81歳のA先生。(数分後無事復帰) 学生番号を書いて回す紙が回収されて、そこに書かれている人数と実際の出席者に 余りにも人数差がある事に(つまりは代返)泣き出しちゃったT先生。 留年なし、卒業時単位落としてたら退学扱いと言うシステムは厳しいが、そうした 本物の学究に生きて来られた方から物を教わる事の出来た大変貴重な2年であった。
初めのF先生の「声が聞こえない」の話だが、苦手とする周波数と言うのは人に よって随分と違う。聞こえなければいっそ良いのだが、嫌いな音ほど身体に響く。 私がどうにもこうにもならないのは『男性の怒鳴り声』だ。 但し、都合の良い話のようだが青少年はオーケー、駄目なのは『親父の怒鳴り声』 限定である。理由は判らない。 かつて知り合いで漫画を描くお仕事をしている方が居て、作画中のB.G.Mを何時も 探して居られた。その人は女性の高い声がどうにも我慢出来ないと言う。 プラシド・ドミンゴを好んで聴いて居られた。 私の耳に心地よい『音』は逆にかなり『高い音』であるらしい。 サラ・ブライトマン、シャルロット・チャーチ。人によっては好んで聴いてもリラックス までは出来ない高さの声だろう。 楽器にしても 聴くならセロよりオカリナの方がリラックス出来 集中出来る。
先のF先生、女性の高い声が駄目と言いながら、それから10年近く出張講師として 短大の方の仕事をなさって居たと聞いた。どこら辺で折り合いをつけていたのかは 不明だが、女の子の声は苦手でも容姿は決して苦手では無い、そんな茶目っ気が あった方だったのでそっちが優先したのかも知れない。 当時の、尊敬しつつも『愉快な』教授陣はほぼ鬼籍に入られた。 本当に『昭和』は遠くになってしまったらしい。
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