夕方、空が紅いと思って見上げたら雲が紅く染まっていた。 アキコが空の写真を撮ったが、実際に見る色と違って面白くないと言っ ていた。
アキコは何でもすぐ写真に撮るが、ボクは写真には写らないものは世の 中には多いと思う。 アキコとボクでこの空を見上げた時に頬をなでて通り過ぎた風の感触も どこからか聞こえてきた鳥の声も、アキコのポケットの中から漂ってき たビスケットのニオイもこの写真には写っていないのだ。
紅く染まって流れていく雲を見ながらアキコが「今晩は寒くなりそうだ から暖かくして寝るんだよ」と言ってボクの頭をなでてくれた手の感触、 家の中からお腹をすかせたボスが「今日の夕飯は何かな」と言う低くて 優しい声、庭の鶏たちがとまり木にくっつきあって寝支度を始める様子、 みんなみんなボクの小さな幸せなのだ。
紅く染まる雲の下で、人も動物もみんなボクのように小さい幸せを感じ て暮らしているのだろうか。 また明日も晴れるといいな。
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