今日のおたけび または つぶやき

2011年06月23日(木)  「ベッジ・パードン」







面白かったー。

三谷幸喜作品の舞台を拝見するのは「ろくでなし啄木」に続いて2回目なのですが、

三谷脚本の笑いは安心して楽しめますね。安心して笑えるというか。

弱さや情けなさを侮蔑する笑いではなく、そんな弱さや情けなさをもつ滑稽な人間を

いとおしむような笑い。自分にもああいうことあるさ、笑っちゃうよね、みたいな。



英国留学時代の夏目漱石(野村萬斎)と、彼の下宿先のさまざまな人々との関わりを

描いたものですが、本来は彼がロンドン生活に馴染めず苦悩しながらも、小説家への

道を歩み始めるという、非常に重い精神世界を描く予定だったそうなのです。



それが今回の大震災をきっかけに、こういう時だからこそお客さんを笑わせたいと

方向転換し、三谷氏にしては珍しい「ラブ・ストーリー」も追加したと。

本当に笑いどころがいっぱいですが、後半からラストにかけてはかなり深くせつないお話で、

ただ面白いだけのコメディではありませぬ。




英語がなかなか上達せず、英国人とのやりとりもギクシャクしている金之助(漱石)、

同じ下宿先の住人で、英語も堪能で社交的な日本人駐在員ソータロー(大泉洋)、

タイトルにもなっているベッジ・パードンというのは、その下宿先のメイド(深津絵里)の愛称で、

金之助が唯一、緊張せずに会話ができる相手。

ベッジの弟で、困ったことがある度に下宿をこっそり訪ねてくるブリムズビー(浦井健治)、

下宿の女主人、その夫、その妹、強盗、刑事、牧師、英国女王、街の人、はては下宿の飼い犬まで

計11役をひとりで演じ分ける浅野和之。



コックニーなまりのキツい生粋のロンドンっ子のメイドを演じる深津絵里が、

キュートで強くて優しくて最高に魅力的。

大泉洋ちゃんは、堂々とした日本人駐在員っぷりで、誰と絡んでもとにかく面白い。

とにかくとにかく面白い。そして実物は意外に(失礼)長身でスタイルもとても良くて、

ビジュアルも声も大変に舞台映えする方だったのだなー、と嬉しい発見。


11役のどれも最高に面白くて、それを次から次へと早変わりで演じ分ける浅野和之氏の

芸達者っぷりは目を見張るほど。すごいですこの方。


浦井健治さんのやんちゃな弟っぷりもすごくステキ。



で、ナマ大泉洋ちゃんと同じくらい楽しみだったのが、ナマ野村萬斎さん。

あの素晴らしい声をナマで聞いたらどんな感じかしらん、しかも現代劇で、と、

大変楽しみにしておりました。



やはり素晴らしかったですー。

世田谷パブリックシアターは600席と大変こじんまりした劇場なので、

あんなによく聞こえていてもきっと抑え目に発声なさっているにちがいないと思ったのですが、

本気になったらいったいどこまで届くのでしょうね。本当によく通る、低く深い声でいらっしゃいました。

篠井英介のお声のように聞こえることも度々。



言葉のコンプレックスを抱えているのは金之助だけかと思いきや、

実は登場人物全員がそれぞれ強烈なコンプレックスを抱え、それと日々格闘している。

紳士淑女の国で東洋人がちゃんと受け入れられているように見えながら、

実は厳然とした差別がある。


ということが、この下宿内でのさまざまな出来事を通じて実に巧みに描かれ、

いっぱい笑いながらもほんのりせつなく哀しくなり、そして一筋の希望を残したラストへと

向かってゆくのです。いいお話でした。



場面はずっと金之助の部屋なのだけど、質素ながらとても感じのいい部屋だなー、と

思っていましたら、美術が種田陽平さん。たしかに、これでちょっとやわらかい色みや草花を加えたら

「借りぐらしのアリエッティ」の世界になりそうでした。いいなー、ああいうお部屋。



そうそう、終演後のロビーでSPに出演していた野間口徹さん(尾形の実家に調査に行って暴漢に襲われたメガネの人)

をお見かけしました。SPの人だー! と、ちょっとテンション上がりました。




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