せらび
c'est la vie
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みぃ


2005年03月16日(水) 何年か振りに春の訪れに気付く

先日の日記で「糠喜び」と書いたが、ここ数日ボスとの交信を続けているうちに、それ程糠喜びでも無く、意外とワタシに好都合に事は運びそうだという事実が判明して、今日のワタシは俄かにお祭り気分である。

ここ数年のワタシを表現すると、先の見えない長いトンネルに入り込んでもう大分経つのに、まだまだ先が見えないで不安な毎日を送っている、という感じだったのだが、これが一転して、突如目の前に「将来」という光が見えた。おお、ワタシにも「将来」というものがあったのか!ユーリカ!というような気分である。


そうか、もうこの街にも春がやって来ていたのか、とふと気付く。

そういえばこのところ普通に暖かい日が続いていた。「普通に」というのは、最低気温がぎりぎり氷点上という意味である。必ずしも暖かいとは言えないかも知れないが、この界隈的には充分春の兆しである。

ワタシは便所の窓を開けて、乾燥した室内に外の湿気を入れようと試みる。この場合必ずしも便所である必要はないのだが、これが家中で一番開け易い窓なのである。

思いがけない突風が横面をはねる。それはまだ冷たいけれど、如何にも北国の春というべきもので、そのうちこの街を出て行く日を、これまでのような夢ではなく確実に近い将来の予定として実感しながら、ワタシは暫く窓辺で風に当たっていた。それはまるで、全身、五臓六腑がすっかり洗われるような心持ちだった。

そうか、するとこれが、この街最後の春になるかもしれない。

この先どこへ行くのか、それはまだ決まっていないけれど、少なくともこの街とはもうおさらばである。この街に罪は無くて、本来それはワタシ個人の逆恨みのようなものなのだけれど、この際仕方が無い。

先日も同僚と今後の事に付いて話をしていて、この街でずっと暮らせばいいじゃないか、そもそも長い事この国に居て、今頃国へ帰ったところで再適応も大変だろう、という話になった。

確かに、この国で過ごすのに慣れてしまって、他所へ行こうというのは中々考えが及ばない。でも、この街はもういい。同僚の多くは、この街に住む事自体をとても気に入っているのが多いから、そういうと大概怪訝そうな顔をする。

恐らく人が聞いたら羨むような事なのかもしれないけれど、この街に住むのと引き換えにやって来たあれやこれやの困難や苦労は、実際ワタシの身には余るもので、今後余程大金持ちにでもなるとかノーベル賞のロウリエイトにでもなるとか、そういった事にならない限り、この街には帰って来たくないという気分である。

いや、別に金持ちになりたいと思っている訳では無いのだが、何というか、例えば「故郷に錦を飾る」とか「凱旋帰国」とかいうようなのに近い感情だろうか。いや、見栄の為でも無いのである。何しろ余程の事が無い限り、ワタシはこれまで被った色々な困難や心の傷を帳消しには出来ないだろうと思うので、これからの人生がそれを癒してくれるまで、この街は当分「蚊帳の外」に置いておきたいという事である。


という訳で、今日は思い立って、高野豆腐とじゃがいもをしいたけと昆布で煮て、久し振りに純和風なおかずを食べた。

芋以外は全て乾物で、全く大した物では無いのだが、ワタシ的メインは取っておきの高野豆腐である。

密かなお祝いで、心身共に温まる。


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