せらび
c'est la vie
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みぃ


2004年11月11日(木) 余程寒いのかと覚悟していたが意外と寒くなくてよかった、訴訟其の一、第四話

訴訟其の一、第四話。

それではいざこの陳情書を送付しよう、ということで、お隣のお姉さんとワタシは翌日郵便局へ連れ立って出掛けた。

ワタシは実は前夜から嫌な予感がしていて、それを包み隠さず彼女に伝える積りでいた。

というのは、この陳情書の差出人として誰かの名前と住所を書かねばならないのだが、それを誰にするかという事についてだった。それは受け取る方からしてみれば、単なる差出人では治まらず、この一件の纏め役、または首謀者、更に反逆者であるという風に受け止められる事はほぼ間違いなかった。

そうなれば、様々の嫌がらせの矛先が集中する事は容易に想像が付いた。ワタシはそれを懸念して、まるでドアの外に大家の差し向けた手下の者がじっと中の様子を窺っている様子を想像して、不安で前夜は中々寝付けないでいたのだ。

これまでの経緯から、彼女は恐らくワタシに面倒を押し付けて来るのではないかとの予感があった。そしてそれは見事に的中した。

ワタシは一頻り世間話をした後で、彼女に話しかけた。

ところで、この「差出人欄」については、どうしましょうか。

すると彼女は軽く答えた。

ああ、それはもう、ワタシはホラ、全然言葉が出来ないから、そういう大事な事は全て貴方にお任せしといた方が良いと思うの。だから、宜しくお願いします!頼りにしているからね。

そう言うんじゃないかと思っていたの、とワタシは苦笑した。

これは言うなれば、ある日貴方がうちの戸を叩いて、自分だけ良ければいいと言うような勝手な事ではいけないと言うから、ワタシはこれまで貴方の言う様に協力してきたのだけれど、これは元々は貴方の考えであった訳で、ワタシはそれに協力しているだけの身分だし、またワタシより貴方の方がずっと年上なのだから、当然貴方がリーダーシップを発揮してやって行くべきだし、それに社会的地位とかいったようなこの地で守るべきものが、貴方には無いようだけれどワタシにはあるので、いざとなったら日本へ逃げて帰れば良いという様な状況ではないし、そうするとワタシだけが痛い思いをするのは納得が行かないのだけれど、その辺りについてもう一度聞くけど、貴方はどう考えているのかしら。

すると彼女は少し真面目な顔になって、もし貴方が何か嫌がらせを受けるような事があれば自分も助けに行くから心配するな、と言った。

しかしだからと言って、それではここで自分の名前を差出人・首謀者として書いて潔く自分が痛みを引き受けましょう、という様な事は一切言わなかった。何しろ言葉が出来ないから、普段苦情を言うのにも、例の不倫相手の医師に頼んで大家と交渉してもらっているくらいだから、こんな「大それた事」で大家と逐一交渉するだなんて、とんでもないと言った。


ワタシは言葉を飲み込んだ。



…じゃあ、そんな「大それた事」をやろうなんて、自分で出来もしない事を、無闇に人にけしかけるんじゃねえよ…



こういうところが、実に間が抜けていると思う。この人は、自分では全体像を見据えて完璧にやっている積りらしいが、分かっていそうで実は何も分かっていないから、結局誰かが尻拭いをしてやらなければならない。七つも年下のワタシが、どうして貴方の尻拭いをして上げなければならないのだ。自分は随分出来る人間だと言っていたじゃないか。看護学校で教えるのは、それなりの学校を出なければ出来ないのだと、あんなに自慢していたじゃないか。口で言う程出来の良い人物でも無いくせに、大きい事を言い過ぎる。


しかし既に人々の署名を集めてしまっているので、ワタシたちは後に引けない。

結局ワタシが自分の名前と住所を提供して、陳情書を出すことになった。このお陰で、まんまとワタシが首謀者であると見做されて、法廷でも法廷外でも、散々な目に遭う。

第五話へつづく。


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