せらび c'est la vie |目次|昨日|翌日|
みぃ
実はこの街が好きでない理由のひとつに、蟹座の「がみがみガール」 に幾度と無く 振り回されたというの以外に、必要の無いトラブルに巻き込まれ続けたというのが大きい。 この街へ越して来て最初の数年間のワタシには、所謂「家運」というのがまるで無かった。同居人や大家の良いのに当たらなかったので、忙しい最中に不本意ながらあちら此方へ引越しを繰り返す羽目になったし、その関連で訴訟も二回ほどやったから、本業には当然支障が出た。 ワタシの生活に数年間の空白があったと 以前書いたけれど、それは必ずしもその言葉通りではなくて、本業的な業績としては芳しくなかったが私生活的には大忙しだったの意である。 裁判沙汰というのは、時間と神経を大いに磨り減らすので、避けようがあるなら避けるが良いに越した事は無い。 ワタシの場合は、一度は大家を相手にアパートの住民を集めて裁判を起したのと、もう一度はその後住んだアパートの同居人を相手にやったのとである。 どちらも法的手段に訴える以外に手が無かったから、今では勉強にもなったしご苦労さんと自分の肩をぽんぽんと叩いてやっているけれども、当時は一体どうしてワタシばかりがこんな目に遭わねばならないのかと、神様仏様イエス様にアラーの神様と、片端から捕まえては恨み言を述べ立てていたものだ。当然ながら、ワタシは以来無心論者である。 その大家は、某アジア系移民で、成金上がりの嫌らしい男であった。 「嫌らしい」というのは、どさくさに紛れてワタシの手を握ったり腰に手を回したりと、勘違いも甚だしい行為を続けたからである。こういう権力を笠に着るやり方というのは、アジアの成金特有のものだろうか。こういう輩に手篭めにされるアジアの女が後を立たないのも、全く心苦しい限りである。 勿論ワタシは強く逞しい女であるから、そのような手には一切乗らない。勇ましくもその汚らしい手を捻り上げては、そんな事をしていると今に貴方の後ろの穴にこの汚らわしい指を突っ込んで前立腺を突付き回して差し上げるから覚悟なさい、等と言ってやったりしたものだ。お陰で以来その大家は、ワタシに対する破廉恥な行為を慎むようになった。 何にせよ、初っ端からどうも胡散臭い奴だという懸念は抱いていたのだ。 契約が済んでも、ワタシの部屋はまだ改装工事が済んでいなかった。更に引越しが済んでも、まだバスルームが使用不可能だったから、ワタシは友人宅を頼って暫く居候の身分であった。 その際、ワタシのボスにその事情を話したら、彼は大家にわざわざ電話を掛けて苦情を述べてくれた。「ネームバリュー」というのは、こういう時に心強いものだと感心した。力のある人物や会社などとの関わりは、こういう時大いに役立つ。大家は直に工事を終わらせると、ワタシに電話を掛けてきて、わざわざボスに言うまでも無かったのに馬鹿だなあはははと言った。 振り返ってみれば、この時の対応は、ワタシと大家の間の後の紛争にも一役買ったのかも知れない。 兎も角そうしてワタシは、新居にやっとこさ落ち付いた。 ある秋の肌寒い日、ワタシは帰宅するなり、ドアの下にメモが挟まっているのを発見した。 訴訟其の一、第二話へつづく。
|