Mako Hakkinenn's Voice
by Mako Hakkinenn



 FIA、トルコグランプリの表彰式を問題視
2006年09月03日(日)

 前戦第14戦トルコグランプリの表彰式で、優勝したフェリペ・マッサへのプレゼンテーションが政治的に利用されたとして問題になっています。F1を統括しているFIA(国際自動車連盟)のスポークスマンはこの問題に関して、来年のトルコグランプリ開催が許可されない可能性を示しました。

 問題となっているのは、トルコグランプリ決勝後の表彰式で、キプロス系トルコ人のリーダーであるメフメト・アリ・タラート氏が優勝したフェリペ・マッサにトロフィーを渡すプレゼンテーターを務めたのですが、この際テレビのテロップには「北キプロス・トルコ共和国首相」と紹介されたというもの。
 アリ・タラート氏はキプロスのトルコ系政治家で、キプロス再統一支持派として知られていますが、「北キプロス・トルコ共和国」を承認しているのはトルコ政府だけで、国際的にはかなり論争を呼ぶ部分であり、場合によってはテロリストの反発を招く可能性すらあるということです。

 この問題は非常に複雑で、いわゆる「キプロス問題」が絡んでいます。なるべくわかりやすく解説しますと、キプロス共和国(通称キプロス)は、トルコの南の東地中海上に位置するキプロス島1島からなる島国なのですが、ギリシャ系住民とトルコ系住民の混住する複合民族国家なのです。キプロスは1974年以来南北に分断されており、島の北部約37%を、国際的にはトルコ共和国のみが承認する「独立国家」であるトルコ系住民による北キプロス・トルコ共和国が占めています。

 キプロスは紀元前にはヒッタイト、アッシリア、エジプト、ギリシアなどの支配を受けた後、紀元前76年にローマに併合され、ローマ帝国の分裂後も東ローマ帝国(ビザンツ)の支配下に留まりましたが、十字軍の時代にイングランドに支配され、その後ヴェネツィア共和国、オスマン帝国、イギリスなどの植民地となり、第一次世界大戦でイギリスと併合しました。
 その後第二次世界大戦後にギリシャ併合派、トルコ併合派による反イギリス運動が高まったため、1960年にイギリスから独立したのですが、1974年にギリシャ併合強硬派によるクーデターをきっかけにトルコ軍が軍事介入して北キプロスを占領し、さらにトルコ占領地域にトルコ系住民の大半、非占領地域にギリシャ系住民の大半が流入して民族的にも南北に分断されてしまいました。
 現在、南北キプロスの間では国際連合の仲介により和平交渉が何度も行われ再統合が模索されていますが、解決を見ておらず、北キプロスのトルコ系住民は、軍事的な後ろ盾となっているトルコの承認を得てキプロス共和国からの独立を宣言した1983年以来、トルコのみが承認する「独立国家」北キプロス・トルコ共和国として南との分離を主張してます。

 つまり、国際的にはキプロス共和国という1つの国家として認識されており、トルコを除く各国は北キプロス・トルコ共和国を承認せず、この独立を認めていません。特に、北キプロスの分離によって実質的にギリシャ系政権となった南のキプロス共和国政府や、その後ろ盾であるギリシャ政府は、北キプロス政権を非合法なものとみなしており、トルコの傀儡国家として強く非難しているのです。それにも関わらず、前戦のF1トルコグランプリの表彰式では、開催国のトルコだけが承認している北キプロスを独立国家とした国際的には認識されていない「北キプロス・トルコ共和国」という国名がテロップに使用されたことが、FIAで問題視されているというわけです。
 それでは表彰式でのメフメト・アリ・タラート氏のテロップが「キプロス共和国」だったら良かったのかと言えばそうではなく、トルコグランプリの表彰式でトルコ共和国の人間ではなく、キプロス系トルコ人のリーダーが登場したことが、すでに問題であると言うことです。

 さて、ここで大きな疑問です。単なる国際モータースポーツを統括するだけのFIAが、このキプロスとトルコの2国間の問題に口を挟む権利が、果たしてあるのでしょうか。国際的な調和と平等を目的とする中立組織である国連ならともかく、F1がヨーロッパの文化であることを背景に、過去にはアイルトン・セナなどの非ヨーロッパ系のドライバーに対して、現在でもホンダやトヨタと言ったアジアのチームに対して未だに人種差別的な行動をおこなっているFIAに、今回の問題をとやかく言う権利などあるのでしょうか。

 FIAは「トルコグランプリの主催者はわれわれを欺き、中立であるべきスポーツを政治的な目的のために利用した」と、強く反発し、今後この件を世界モータースポーツ評議会に提出するとしています。

 大笑いですな!まさかFIAから「中立」などという言葉が出てくるとは!現在に至るまで人種差別やフェラーリとの癒着といった不公平を平気でおこなってきた、中立とは無縁であるFIAから「中立であるべきスポーツ」などという言葉が出てこようとは!

 トルコグランプリの主催者がキプロス系トルコ人を表彰台に上げ、その国際映像で勝手にトルコだけが主張している「北キプロス・トルコ共和国」というテロップを流してしまったことは大きな問題ですが、FIAはそんなことで騒ぐ前に、まず自らが不平等な働きをやめ、「中立であるべきスポーツ」を運営するべきなのです。

 「自分のことは棚に上げる」とはまさにこのことですな。



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