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■ CDは高音質ではない
2006年03月08日(水)
【2006 Voice Rally Result】(Update:March17) Mako Hakkinenn(M-NEST.net/JPN)…… -8days
今日のVoiceは、音響効果の授業です。
うちの実家に32型のデジタルハイビジョン液晶テレビ「VIERA」(パナソニック)が入ったというのは以前Voiceでお伝えしましたが、僕の自宅にあるテレビは、大きさこそ26型と大きいものの、1990年製の古いテレビで、もう画面がにじんでしまって小さな文字(レースゲームなどのタイム表示)などが見えにくくなってしまっている状態なので、サッカーワールドカップが終わったら、僕もデジタルハイビジョン液晶テレビを買おうと思っています。
で、今はまだ買えませんが、とりあえず今はどれぐらいの値段でどんなものが出ているのかと思い、ちょくちょく電気屋さんを覗いているのですが、展示ポップやカタログなどを見ると、新型テレビの音質の良さをアピールするコピーで「CD並みの高音質」という表現をよく目にするんですよね。
僕は大学では音響効果を専攻していたのですが、僕にしてみれば、「CD並みの高音質」だったら、大したことないじゃんって思ってしまいます。市販されている音楽CDって、別に高音質ではないですから。
音を表現する基準の一つに「ダイナミックレンジ」というものがあるんですが、これは「音の周波数の幅」のことで、わかりやすく言うと低音域から高音域の間のことを表します。で、カセットテープ、CD、MD、DATといった音を録音して保存するメディアでこのダイナミックレンジが異なります。このダイナミックレンジが大きければ大きいほど、音の音域を幅広く再現することができるということになり、よりリアルなサウンドになると言うわけです。 前述のメディアをダイナミックの小さい順に並び替えると、大まかに言ってしまえば「カセットテープ<MD<CD=DAT」という序列になります。カセットテープとMDの差はそれほどなく、MDはデジタル録音ができますが、意外とダイナミックレンジは小さいです。
さらにカセットテープの場合、ノーマルテープ、クローム(ハイポジ)テープ、メタルテープでダイナミックレンジが異なり、ノーマルテープのダイナミックレンジを基準にすると、クロームテープはかなりダイナミックレンジが広くなり、実はアナログでありながらMDと同レベルのダイナミックレンジを許容できます。ではメタルテープはもっとダイナミックレンジが広いのかと言えばそうではなく、メタルテープは高音域の許容量を上げただけで、メタルテープに音を録音すると高音域がキンキンとした硬い音になってしまい、逆に低音域はくぐもった音になってしまうなど、値段が高い割に大してメリットがないため、プロがカセットテープを使用するときは、クロームテープを選びます。
ここまで書くと、「なんだやっぱりCDはDATと同じで、一番音質がいいんじゃん」ってことになりますよね。そうなんです!本来CDに焼き付けることのできる容量をフルに使えば、高音質のままCDに納めることができるんです。しかし、実は市販されている音楽CDは、本来CDで表現できるはずのダイナミックレンジの、約半分程度の音質(クロームテープのレベル)に意図的に下げられて販売されているんです。皆さんご存じでしたか?
なぜ本来CDで表現できるはずのダイナミックレンジをフルに活用せず、わざわざクロームテープのレベルにまで音質を下げて販売しているのでしょうか。
答えは簡単です。CDを買ったユーザー、あるいはCDをレンタル屋さんで借りてきたユーザーが、CDの音楽をカセットテープにコピーするからです。CDが販売された当初はまだカセットテープが主流でしたから、ウォークマンなどのポータブルカセットプレイヤーやクルマのカセットデッキで音楽を聴くために、みんなCDをカセットにコピーしていたんですね。 しかし、本来CDで表現可能なダイナミックレンジをフルに使って焼かれた音楽CDを販売したら、カセットテープでは許容範囲を超えてしまって、高音域は割れ、低音域はくぐもってしまい、マニュアルで音のレベルを下げなければ録音できなくなってしまうのです。そうなってくると、音響に詳しい人ならレベル針を見ながら調節ができますが、誰でもダビングボタン一発で、とはいかなくなってしまうわけです。
市販の音楽CDのジャケットを見ると、「コピーは違法だからしてはいけません」といった注意書きが書かれていながら、実はカセットテープにコピーされることを前提として販売されているというわけですね。だから市販の音楽CDは、カセットテープにコピーしてもCDと同じ音質でコピーできるように、わざわざクロームテープ並の音質に下げられて販売されているのです。
ちなみに、僕を初め多くのプロの音響関係者は、マスター音源CDを作成する際には、CDのダイナミックレンジを最大限活用して録音します。それをCDプレイヤーで再生すると、通常の音楽CDの倍近い音量になります。その代わり低音域から高音域までより忠実に記録されるというわけです。
そんなわけで、最初の話に戻ると、デジタルハイビジョン液晶テレビにあった「CD並の高音質」というコピー、当然消費者にとっての「CD」と言えば市販されている音楽CDでしょうから、言い換えると「カセットテープ並みの高音質」ということになるわけです。
逆を言えば、MD、CD、DATはデジタル録音なので基本的に音の劣化はなく、カセットテープだけがアナログなので時間と共に劣化してしまうわけですが、劣化していない状態では、カセットテープも十分音楽の記録媒体としてはいい音質なんですよね。何せMDや市販されている音楽CDと同等なんですから。
人間の聴覚は、結構いい加減なものですね。
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