Mako Hakkinenn's Voice
by Mako Hakkinenn



 「誘惑の光景」展を観に行く
2005年11月23日(水)

 今日は自宅からクルマで約15分のところにある静岡県立美術館で開催中の「誘惑の光景」展に行ってきました。この展覧会は19世紀のロマン主義版画のウジューヌ・ドラクロワ、ジョン・マーティンなどの作品が展示されているもので、人間の「欲望への誘惑」をキーワードに、文学と芸術とが一体となった版画作品が展示されています。

 18世紀後半から19世紀半ば頃にかけて、ロマン主義の作家たちはさまざまな文学的主題を、挿絵として視覚的に表現しています。この展覧会ではイギリスとフランスの作家たちに焦点を当て、「失楽園」「聖書」「ファウスト」「シェイクスピア作品」の4つのテーマによって構成されています。

 昨年1月25日付のVoiceでもご紹介しましたが、僕はいわゆる石版や銅板を細かく削って描くエッヂングの作品が大好きなのですが、今回観た作品の多くは石版によるエッヂングで、以前観た「ローマ散策展」のビラネージよりもさらに精密に描かれており、エッヂングとは思えないほど滑らかで壮大でした。特にジョン・マーティンの「失楽園」は、登場人物の描写もさることながら、それよりもむしろ背景の描写に力が込められている作品が多く、遠くの山々や宮殿、さらにその向こうの雲など、版画とは思えないようなリアルな遠近感に吸い込まれてしまいそうでした。

 彼らがひとつの版の中で刻んだ風景は、技法は異なるものの、情熱に満ちた独自の光と影の世界を演出しています。「誘惑」を軸に展開される、劇的なモノクロームの迫力に満ちた人間ドラマが、小さなスペースの中に圧倒的なスケールで活き活きと描かれていました。
 また、先に述べたように、4つのテーマごとにブースが分かれており、さらにその各テーマをストーリーに沿って追っていくという構成になっていて、作品とともにストーリーのあらすじや場面解説も添えられていたので、簡略的ではありますが「失楽園」「聖書」「ファウスト」「シェイクスピア作品」それぞれの物語を把握しながらじっくりとその世界に浸ることができます。
 ドラクロワ、ジョン・マーティンの他にも、リチャード・ウェストール、ウィリアム・ブレイク、チオドール・シャセリオー、ジェイムス・バリー、ギュスターヴ・ドレ、トニー・ジョアノといった当時の名だたる版画家たちの作品が約120点も展示されていて、とても見ごたえがあり、すべて観て回るのに2時間以上も要しました。

 芸術の秋に、久々に美術館へ足を運んで、ヨーロッパの古典文学の世界へつかの間のトリップをすることができました。やはり時々こうやって現実世界から離れて、美術館の静寂な空気の中で芸術に浸ることは大事なことですよね。芸術は、人間だけが楽しむことのできる文化なのですから。



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