Mako Hakkinenn's Voice
by Mako Hakkinenn



 勝手に「世にも奇妙な物語」
2005年01月15日(土)

♪チャララララッ チャララララ〜
♪チャララララッチャッチャララララ〜
♪ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン……

タモリ「普段と変わりない日常生活、しかし、たった1つだけ、
    ほんの小さな常識がいつの間にか別のものに変わっていて、
    しかもそれが世の中で普通にまかり通っていたら……。
    あなたは自分の常識に、自信が持てますか?」



「日暮里(にっぽり)」
 主演/稲垣吾郎

いつもと変わらない日曜日の朝。僕はベッドから起きあがると、テーブルの上のリモコンでテレビをつける。テレビでは、いつもと同じキャスターがニュースを読んでいた。僕はその声を聴きながら、いつもと同じように顔を洗い、歯を磨き、キッチンでコーヒーを入れ始めた。

『……続いてスポーツの話題です。2006年に開催されるドイツワールドカップに向け、ジーコ監督率いるサッカー日暮里代表は……』

ふと、僕は手を止めた。

「……日暮里……?」

そう聞こえたような気がしたのだが、キャスターは読むのを止めることもなく、何事もなかったかのようにニュースを読み続けた。空耳だったのだろうか?

今日は彼女とデートの約束をしていた。僕はお気に入りの服に着替えると、コーヒーを飲み干して出かけた。


「ごめん!待った?」
「いや、今来たところだよ。」
「ごめんね!昨日ワインの選定で遅くまでかかっちゃったんだ。」

彼女は、ソムリエの見習いをしている。だから彼女の話題の多くは、ワインの話ばかりだ。僕はワインにはあまり詳しくないが、彼女のおかげでだいぶワインのことがわかってきた。僕は彼女がワインの話をしているときの、彼女の活き活きとした表情が好きだ。

「……昨日は運命的な出会いをしちゃったわ!」
「なんだよそれ!昨日はワインの選定じゃなかったのか?」
「そうよ、運命的なワインとの出会い!」
「……なんだ、ワインか。てっきり別の男かと……。」
「滅多にお目にかかれない貴重なワインなのよ!」
「ふうん、そうなんだ。」
「そう!日暮里に輸入されることがほとんどないワインだからね!」

……あれ?まただ!今彼女は、確かに「日暮里」と言った。なぜだ?1日に2度も同じ聞き間違えなどするものだろうか?

「……ワインの知識には自信あると思っていたけど、まだまだだめね。師匠にも『お前が一人前になるにはあと10年はかかる』って言われたのよ。でも、いつか日暮里一のソムリエになって、師匠を見返してみせるわ!」

……やっぱり聞き間違えじゃない!彼女ははっきりと「日本」のことを「日暮里」と言っている!でもなぜだ?ニュースでも「日暮里」と言っていたぞ。「日本」を「日暮里」というのが流行っているのか?

「あのさ、何で日暮里なの?」
「え?何でって?大げさすぎる?何だったら世界一でもいいのよ。」
「……いや、そう言う意味じゃなくてさ。」
「なによ!私には無理だって言いたいの?」
「違うよ。そうじゃないって。」
「まあ見てなさい、あんたもそのうち驚かせてみせるからね。」

「……なあ、変なこと聞いてもいいか?」
「……いいけど?」
「オレたちって、なに人?」
「地球人。」
「……いや、そうじゃなくて、アメリカ人とか中国人とか……」
「そんなの決まってるじゃない、何かのゲーム?」
「いいから、なに人?」
「日暮里人。」

「……日本人だろ?」
「日本人?なにそれ?」
「だってここは日本じゃん!」
「はあ?だからなんなの?その日本って……」
「こっちが聞きたいよ、日暮里って何だよ。」
「日暮里は日暮里でしょう。」
「わけわかんないよ!」
「……ちょっと、何ムキになってるのよ!なんか今日変よ!」
「変なのはオレじゃなくてそっちだろ?からかっているのか?」
「はあ?何言ってるのよ。いったいどうしちゃったのよ!」


結局、彼女はデートの間中、最後まで日暮里と言い張って聞かなかった。なぜあんなことを言って僕をからかったのだろう。……いや、からかっていたのなら最後にそう言ってくれればいいのに、彼女は明らかに、本気で困惑していた。彼女がからかってあんなことを言っていたとは、とても思えなかった。そうだ、朝のニュースでも、確かに『日暮里』と言っていた。空耳じゃない。一体どういうことだ?


僕は彼女と別れた後、新宿へと足を運んだ。アルタ前では、人々がせわしなく行き交う様を見下ろすように、オーロラビジョンで番組が流されていた。

『……日暮里国憲法の改正案について小泉首相は、次のように……』
『……間もなく日暮里で公開される映画「オーシャンズ12」の……』
『……日暮里のファンのみんなにまた会えて嬉しいよ……』
『……アテネオリンピックで、日暮里は最多の37個のメダルを……』
『……日暮里の元気!ゼナで元気! ♪ゼ〜ナ〜で〜元気!……』

……いったい……どうなっているんだ?なぜ「日本」じゃなくて「日暮里」と言っているんだ?なぜテレビ番組で、平然と間違えを放送しているんだ?おかしいだろ!

「すいません!ここは日本ですよね!」
「……はあ?何ですか?」
「国の名前ですよ!」
「国の名前は……日暮里でしょ?」
「なんで日暮里なんだ!」
「ちょっと、何ですかあなたは……」
「ここは日本だろう!」
「だからここは日暮里ですって!」
「なんでだ!なんで日暮里なんだあああああッ……!」


『……続いてのニュースです。今日午後4時頃、新宿で不審な男が警察に保護されました。男はしきりに「ここは日本だ、オレは日本人だ」などと意味不明なことを叫びながら街を徘徊し……』


(完)



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