早朝。母が血相かえてうちに入ってきた。
『あんた、バーちゃんね、身動きせんで、廊下に座り込んでね。声かけたら、動いたけん、死んでないけどね、立てんとよ。 足の骨か、折れとるみたいやし。』
『え〜〜!!ほんとー?救急車やかね。』
夫『もし、複雑骨折で、内出血してたら動かさん方がええよ、 救急車に頼んだ方がいいかもね。年寄りやし、骨の折れ方は もろいし、多分、ぼろぼろに折れてるかもね。』
それから、救急車を呼んで、母はバーちゃんに付き添って行ってしまった。 私は、子供たちを学校やったり、幼稚園やったり、坊主も微熱で機嫌悪いし、家でひたすら連絡を待った。
さすがに、介護に手も口も金も出さなかった、バーちゃんの5人の子供たち。そのうちの4人が、短時間の間に病院に集まったそう。たった一人の息子は、どこにいるか連絡がつかないらしい。
私は病院に行かなかったので、どんな雰囲気か想像もつかなかったけれど、多分娘たちは私の母に対して、後ろめたさがあっただろうし・・・・.
父が亡くなって、あさってでちょうど10年。 10年にして、やっと子供たちが動かざるを得なくなった。 母も少しほっとしたんではなかろうか。不謹慎だけども。
父が、あの世からやっと愛する妻のために、重い腰をあげたような気がする。
・・お父さん、バーちゃんの背中、ちょっと押したんかね?・・
って、聞きたくなった。
バーちゃんは、大腿骨付近を、複雑骨折。 太いボルトを入れて、大掛かりなオペをしたそう。3時間半。 手はベッドにくくりつけられて、身動きできなくしてるらしい。 私とて、バーちゃんに育てられたようなもんだし、情はある。 かわいそうだよなあ。ボケてしまって、右も左もわからない、誰かもわからない、そんな心の不安の中で、寝たきりになってしまうのだろうか・・・。
母は、夜、疲れて帰ってきた。
『お母さん、今日はゆっくり寝なよ。バーちゃんもおらんし。明日の朝も、ゆっくりしとき。』
母もまた、複雑になってる・・・。 最後まで自分が介護すべきなのか・・・
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