それでも、大学の窓口の担当者に怒っても、ぼくたちに何の益もないことはわかっていました。その人には、長期履修制度認定についての決定権などないのです。のちに開催される教授会というところで決められることであり、その人は、教授会に提出する書類をそろえるのが仕事なのです。しかし、同じその仕事をするにしても、学生を応援しようとしてのぞむ人と、できるだけ自分の仕事を少なくするために申請をしりぞけようとする人がいます。この人は後者でした。 ですから、ぼくたちのとるべき方策は、とにかく我慢して、教授会までたどりつくことでした。教授会には、妻のことを理解し応援してくれる、心強い指導教官がいます。
そこで、まず、ぷーちゃんのかかっていたお医者さんに相談することにしました。電話をかけて、こみいった事情を説明し、診断書をお願いしました。「慢性的なぜんそく」だなんてことはかけないでしょうが、「再発の可能性がある」くらいは書いてくれるかもしれないと思ったのです。 すると、二つ返事で「もちろん書きますよ」と言ってくれました。 そこで、そのお医者さんに行くと、あいかわらず、せきこんでいる子どもたちがたくさんいました。 「この1年に何回くらい発作がありましたか」 「1、2回ですね」と言うと、 「それではこんな感じで役に立ちますか。気管支喘息で、これまで年に数回の発作があり、今後も再発の可能性が高い」 と言われました。 これは、予想していた以上に役に立つものでした。 応援してくれる人もいるのだなあと、ほっとしたひとときでした。
さて、この診断書と母子手帳の表紙のコピーを窓口に出すと、翌朝、電話がかかってきました。 「母子手帳の中の、出産予定日の書いてあるページのコピーもください」 やれやれやれ。母子手帳の表紙には発行年月日が記載されています。母子手帳は「妊娠証明書」がなければ発行してもらえません。だから、「これは立派な証明です」と言いたくなりましたが、「わかりました」と大人らしい返事をしました。 家に帰り、母子手帳を借りようとすると、妻が言いました。 「このページには検査結果がたくさん書いてあって、個人情報だよ。出したくない」 もっともなことでした。どうして、教授会で妻の血液の成分などが公表されなければならないのでしょうか。それに、予定日の欄は、ただ本人が自分で書き込んだにすぎないのでした。 窓口に電話し、「個人情報なので出したくありません」と言うと、「予定日の欄以外は隠してもらっていいですよ」と言われたので、「でも、何の証明もないただの手書きですよ」と言うと、「あらそうだったかしら。うーん。それなら、出さなくてよいです」とやっと、言われました。
まったく、今、ぼくたちはとても忙しいのです。もうすぐ、しーちゃんが生まれるのです。予定日まで3週間ちょっとです。 たのみますよ。長期履修制度。
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