前回の日記の続き。
突然、記憶力をほとんど失くしてしまった主人とともに、 救急病院で紹介された堺市の病院に向かった私達、 そこでは脳神経科医による診察を受けた。
「私が今から言う三つの言葉を覚えてください。 その言葉は、ネコ、電車、サクラです。 今、言った三つの言葉は何ですか?」
「ネコ、電車、サクラ」と答える主人。
「では、今から机の上に私が置く物を覚えてください」 医師はスティック糊とホッチキスを机の上に並べた。 そして「後で尋ねますから覚えておいてください」 と言って、引き出しの中にしまった。
「では、100から7づつ引き算をして行ってください」
「93、86、79、72、65、58、51、44、37、30」
スラスラ答える主人、 記憶力は風前の灯火だが、暗算はできるらしい。 ちょっと安心。
「では、さっき、三つの言葉を覚えてくださいと言いましたね」 「???????」
「それは、何でしたか?」 「???????」
数分しか経ってないのに、そんな話があったことすら憶えていないようだ。
「サクラは三つの中にありましたか?」「????? イイエ」
「ネコは?」「イイエ」
「電車は?」「イイエ」
ダメだ・・・こりゃ・・
ところが!
「さっき、ある物を机の上に置きましたね。それは、何ですか?」
「糊とホッチキス」即座に答える主人。
どうやら、目から入る情報は記憶できるらしい。 たしかに、普段から地理感覚は非常に良い。 一度行った町並みや道を忘れない。 方向音痴で、すぐに迷子になる私はいつも感心している。 ひとりで納得の私。
しかも、「今日は何月何日ですか?」と、医師に聞かれた時、
「自分は全くわからないけれど、さっき、この病院の中で (今日は平成18年4月1日です)と表示されているのを見ました。」
憶えてるやん!!
あれだけ、何度も私が繰り返したのに覚えられなかった「シガツ、ツイタチ」 耳から入った言葉は残ってないのに、目で見た情報は記憶に残っている! 百聞は一見にしかずタイプの人。
「最後に左手で自分の名前を漢字で書いてください」 書き難そうだが、間違いなく書いた。 もともと字が下手な主人、右手で書くのと大差がなかった。
脳神経科の医師から告げられた病名は「一過性全健忘」というものだった。 「一過性」という言葉が耳に入った途端、ホッと安堵のため息。
「24時間以内に9割以上の確率で正常に戻ります」
よかった!!!!
医師の言葉どおりだった。 一時はどうなることかと心配したが、今はいつもの主人。ほんとうに嬉しい。 ただし、当日の記憶は復活していない。 テニスに行ったことはもちろん、その帰り道で記憶がおかしくなり、 救急病院に行って診察を受けたことも、全く記憶が無い。 もちろん、病院の中で同じ質問と会話ばかり繰り返していたことも。 きっと、記憶として頭の中に書き込まれなかったのだろう。 あの日は主人にとっては空白の一日となるのだろうか。
あれ以来、マイカー通勤の主人が帰宅するとホッとする。 夫婦で普通の会話ができることが、ほんとうに嬉しい。
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