そよ風


2006年04月10日(月) 前回の続き

前回の日記の続き。

突然、記憶力をほとんど失くしてしまった主人とともに、
救急病院で紹介された堺市の病院に向かった私達、
そこでは脳神経科医による診察を受けた。

「私が今から言う三つの言葉を覚えてください。
 その言葉は、ネコ、電車、サクラです。
 今、言った三つの言葉は何ですか?」

「ネコ、電車、サクラ」と答える主人。

「では、今から机の上に私が置く物を覚えてください」
医師はスティック糊とホッチキスを机の上に並べた。
そして「後で尋ねますから覚えておいてください」
と言って、引き出しの中にしまった。


「では、100から7づつ引き算をして行ってください」

「93、86、79、72、65、58、51、44、37、30」

スラスラ答える主人、
記憶力は風前の灯火だが、暗算はできるらしい。
ちょっと安心。

「では、さっき、三つの言葉を覚えてくださいと言いましたね」
「???????」

「それは、何でしたか?」
「???????」

数分しか経ってないのに、そんな話があったことすら憶えていないようだ。

「サクラは三つの中にありましたか?」「????? イイエ」

「ネコは?」「イイエ」

「電車は?」「イイエ」

ダメだ・・・こりゃ・・

ところが! 

「さっき、ある物を机の上に置きましたね。それは、何ですか?」

「糊とホッチキス」即座に答える主人。

どうやら、目から入る情報は記憶できるらしい。
たしかに、普段から地理感覚は非常に良い。
一度行った町並みや道を忘れない。
方向音痴で、すぐに迷子になる私はいつも感心している。
ひとりで納得の私。

しかも、「今日は何月何日ですか?」と、医師に聞かれた時、

「自分は全くわからないけれど、さっき、この病院の中で
(今日は平成18年4月1日です)と表示されているのを見ました。」

憶えてるやん!! 

あれだけ、何度も私が繰り返したのに覚えられなかった「シガツ、ツイタチ」
耳から入った言葉は残ってないのに、目で見た情報は記憶に残っている!
百聞は一見にしかずタイプの人。

「最後に左手で自分の名前を漢字で書いてください」
書き難そうだが、間違いなく書いた。
もともと字が下手な主人、右手で書くのと大差がなかった。


脳神経科の医師から告げられた病名は「一過性全健忘」というものだった。
「一過性」という言葉が耳に入った途端、ホッと安堵のため息。

「24時間以内に9割以上の確率で正常に戻ります」

よかった!!!! 

医師の言葉どおりだった。
一時はどうなることかと心配したが、今はいつもの主人。ほんとうに嬉しい。
ただし、当日の記憶は復活していない。
テニスに行ったことはもちろん、その帰り道で記憶がおかしくなり、
救急病院に行って診察を受けたことも、全く記憶が無い。
もちろん、病院の中で同じ質問と会話ばかり繰り返していたことも。
きっと、記憶として頭の中に書き込まれなかったのだろう。
あの日は主人にとっては空白の一日となるのだろうか。

あれ以来、マイカー通勤の主人が帰宅するとホッとする。
夫婦で普通の会話ができることが、ほんとうに嬉しい。


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