そよ風


2005年05月25日(水) 突然の訪問者

ある日、突然、目の前に現れた人は・・・

高校時代三年間、ずっと私の憧れだった人。
もちろん、告白もぜず、ただ一方的に思いを寄せていただけの人。

その人が、ドアの外に立っていた。
娘が三歳、息子がまだ六ヶ月の赤ちゃんだった頃のこと。
誰か判別できるまで、ちょっとした時間が必要だった。
高校を卒業してから十数年が過ぎていた。

ブラスバンド部でトランペットを吹いていたあの頃は、
とてもスマートで学生服のよく似合っていた人。
同じクラブの部員といえども、私には近寄りがたく、
三年間、ほとんど個人的に言葉を交わしたこともなかった。

高三のクラブを引退する間際、三年生だけが全員集まって、
将来の夢や希望を語り合った日、
彼はみんなの前で「外交官になりたい」と言った。
その時、誰もが頷いた。彼ならきっと・・・
彼が関西屈指の名門国立大学に合格したことは、風の噂で知った。

それから十数年。
正直、あまり思い出すこともなかった。
私は私で、それなりに幸福な人生を歩んでいたから。

でも、その彼がなんで我が家の前に立っているの?

しかも、まだ三十歳そこそこだったはずなのに、
彼は見違えるほど太っていた。前後左右に二倍づつ、という感じ。
すぐには、彼と気付かなかったのも無理はない。

その日、彼は生命保険の勧誘員として我が家に現れたのだった。
実は、彼の方は偶然でも何でもなく、高校時代の同窓会名簿を片手に
昔の知人宅を回っていたらしい。
が、私にとっては、彼の来訪はほんとうに想定外の出来事だった。
すっぴんで化粧気ゼロだったのをとても後悔した。

話は盛り上がった。
懐かしい高校時代の友人達の現状を、彼はいろいろ知っていた。
でも遠路遥遥、川西市くんだりまで来てくれたのに申し訳ないが、
彼の勧める生命保険に加入する気は毛頭なかった。
既に加入しているいくつかの保険で我が家の当時の財政はアップアップ、
余分な保険なんて入り込む余地などなかった。

ごめんね。冷たいもんです・・・

もし、あの時、彼が勧誘に現れなかったら・・・
きっと、五十歳を過ぎた今でも、私の中では、
スマートで知的でデリケートな彼のままだっただろう。

その日、話しをして初めて、彼が私の思い描いていたタイプの
人ではない、と思った。
独身だった彼は自慢した。
自分は今、かなりの高い年収がある。
同世代の人達と比べようもないほどだ・・・と。

私の描いていた彼は、そういうことを喋る人ではなかった。

ちなみに私の当時住んでいた家は、中古のマッチ箱のような建売住宅。
しかも、やっとローンで買ったばかりだった。
(思わず、そんな我が家をチラッと見てしまった私・・・)
他にも、「えっ?」と感じるような言葉が出てきた。
(それは省略)

ほんとうの失恋は、あの時だったのか・・・
いいえ、最初から、自分で勝手に作り上げたイメージの彼に
一方的に憧れていただけ。それも高校時代だけのこと。

そんなこと、よくある話だ。

最近、同窓会の案内を手にする機会が多くなった。
この歳になると、子供も手を離れ、時間的にも経済的にも
少しは余裕ができてくるのだろう。

昔を懐かしく思い出して、あの頃の気分に浸る・・・

でも、卒業してからの約35年という年月の流れ、
それがどんな風に自分の顔や体に表れているのかなあ、
などと考えると、ちょっと・・・

いいえ、顔や体にではなく、言葉に表れると思う。
久々の同窓会に出て、ずっと黙りこんでしまったりして・・・

・・・なんてね、今更、どうでもいいのです。
みんなそれぞれ、いろいろあって、ここまで生きてきたのだから。


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