六年前の三月末、息子は大学に通うために名古屋に発った。 三月生まれの彼は、18歳になったばかり。 下宿生活のかけ出しの頃には、息子の方からも、電話がかかってきた。
「洗濯機で洗濯したら、服が全部シワだらけになったぁ! どうしよう?」 「オクラを買ったけど、どう料理するん?」
あの頃は、まだオボコくて、かわいいヤツだった。 こちらから電話をしても、自転車に乗ってる時でも、あわてて電話に出てくれた。
何年かが過ぎ、下宿生活にもすっかり慣れてきた頃、 「クラブでスキーに行くから」「合宿とバイトで忙しいから」 そんなことを言って、盆にも正月にも帰省しなくなった。 (最近は、帰省するようになったが)
この母は、基本的には、それでも嬉しかったよ。 それまで全く知人もいない、初めての名古屋という都会で、 ちょっと前までは、きわめて甘えん坊だった子供が、 ひとりで生活し(もっとも費用はコチラ持ちだけど)、 友達もでき、楽しく学生生活を送ってるのなら嬉しいと思った。
でも、その頃から、何度電話をかけても、いつも留守電ばかり。 特に用が無いのがわかっているので、全然連絡をよこさない。
この母は、のん気なわりには、とても心配性。 おまけに、ミステリー小説の読み過ぎで、 ちょっと連絡がとれなくなると「何か事件に巻き込まれたのでは?」 と本気で心配してしまう。物騒な事件の多い昨今だし。
一回目、二回目の電話が繋がらない時は、「どうしたんだろう?」 三回目、四回目では「病気で臥せってるのかも・・・」 五回目、六回目では「ひょっとして、あの子の身に何か起こったのでは?」
だんだんと、心配がエスカレートしてしまう。 先日、とうとう、こんなメールを書いた。
「何度電話をしても連絡がないので、ますます心配になり、 ますます電話をかけてしまい、それでも繋がらないと、 また、ますます心配になり、という悪循環に陥ってます。 返事だけでもして欲しい」
それで、やっと連絡があった。 「ごめん、ごめん。携帯、ずっとカバンに入れっ放しで気付かなかった」 (だって・・・ふ〜ん、パソコンにもメールを何回も入れたぞ)
そういえば、私とよく似た状況にある友人は、 「おばあちゃんからのお年玉を預かってます。このまま、こちらで預かっておきましょうか?」 と、下宿中の息子にメールを送ったら、滅多に返事をくれない息子が、 「ありがとう。すみませんが送金してください」と、すぐに返信してきたよ、 と、笑って言った。
ほんとうに、ただ「元気にしてるよ」の、ひと声だけで安心できるのに!
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