Rocking, Reading, Screaming Bunny
Rocking, Reading, Screaming Bunny
Far more shocking than anything I ever knew. How about you?


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*名前のイニシャル2文字=♂、1文字=♀。
*(vo)=ボーカル、(g)=ギター、(b)=ベース、(drs)=ドラム、(key)=キーボード。
*この日記は嘘は書きませんが、書けないことは山ほどあります。
*文中の英文和訳=全てScreaming Bunny訳。(日記タイトルは日記内容に合わせて訳しています)

*皆さま、ワタクシはScreaming Bunnyを廃業します。
 9年続いたサイトの母体は消しました。この日記はサーバーと永久契約しているので残しますが、読むに足らない内容はいくらか削除しました。


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2008年01月06日(日)  Singer

年が明けてから、毎日少しずつR.E.M.の'Live'のDVDを見ている。
今頃かよ。発売が昨年10月、それを「すぐにAmazonで安価のが出回るだろうから待とう」と思ったまま忘れ去っていたら、焼いてあげるとオファーがあり、有難く頂いたのが12月上旬。
すみません私はこんなんなんです。本も音楽も気が乗らない限り取りかかれない。特にR.E.M.くらい好きだと、適当に聴くことが出来ないから。例えば寝起きで聴くとか、シャワーを浴びていないのに聴くとか、何かを食べながらまたは満腹の状態で聴くとか、全てもってのほか。
「世界で最も重要なバンド」R.E.M.の初のライヴ盤(CD+DVD)を見る/聴くのがこんなに遅れた言い訳はこのくらいにして、と。

映像の出だしはわりとありがち。ステージ上のサウンドチェックの喧騒と、楽屋での静寂なシーンが交互にあらわれる。ありがちだが、ひとつ異常なのは、楽屋のシンガーが、顔に墨を塗りつけていることだ。目の幅で、両耳までの間をびっしりと。アメコミの強盗みたいと言えばわかるだろうか。
普通にきびきびと歩いてステージに登場したシンガーは、マイクをたたいて確認し、音楽が始まった瞬間に目深にかぶっていたハンチングを投げ捨て、その異様なメイクをあらわにし、同時に爬虫類のような独特の動きをして、オーディエンスの度肝を抜く。
――――私はこれと同じものを見たわ。2005年3月16日、武道館で。あれが私の、現時点における人生で観た最高のライヴ。

シンガーは左手でスタンドマイクをひょいと引き寄せ、歌いだす。マイクのつかみ方ひとつ、ポーズの決め方ひとつ取っても、全く隙がない。独特のミスマッチだらけのいでたちも含め、彼は見事な見世物―――強烈な異彩を放つ虎のごとき見世物だ。
殆ど動きのない這うようなメロディを歌いだすが、これが即座に身震いするような「動揺」を引き起こす。
'I smiled your face'、'Nasa and outer space'といった歌詞の末尾のS音を引きずるやり方もぞくぞくする。
最近しみじみと思う。男性のシンガーとしては、マイケル・スタイプこそがこの世で最高だと。

彼の声の質は、私が本来好きなタイプではない。だから逆に、実際私がその歌にどれだけ魅せられているかを思えば、彼の素晴らしさがよくわかる。
マイケル・スタイプはその表現力と説得力において、他を圧倒している。誰も並ぶべくもない。

このライヴの'Bad Day'を聴いてみるがいい。Aメロの最初でボーカルラインは殆ど動かない。単音に単音節を乗せてえんえんと同じことを繰り返すだけなのに、その一音一音が違う顔を持って迫ってくる。そして僅かなメロディの上下が入った途端に感動的なまでの響きを帯びる。
マイケル・スタイプは、何なら音階なんか要らないのだ。'Electron Blue'の'You'という一音だけで、聴く者の背筋に電撃を走らせることが出来るのだから。

そのシンガーは、歌の表現力だけでなく、パフォーマーとしても一流である。動き、表情、服装、全てが他に類を見ない。痩せて、手足が長い。通常のきれいさだとか、男としての魅力といったものを遥かに超越している。
実際マイケル・スタイプはこのところ妙に肌が衰えたようで、顔の皮膚の一部をアップにするとまるで80歳の老人のようだ。それをこの映像はまたこれでもかというくらい、口元や目元に極端に寄ったカットが多くて、時には汚いと言いたくなるほど。しかしそれすらも自分の存在感に変えてしまう。
この数年で少し声が変わってきた。それは他のシンガーなら衰えになるのかもしれない変化だが。マイケル・スタイプの場合は、深みが増したように聞こえる。
知性と感性が人一倍優れてみえるこのシンガーは、人より早く年を取っているのかもしれないが。
多分彼なら、本当に80歳になった時に、今より素晴らしい歌を歌っているかもしれない。

映像作品としては1996年の'Road Movie'の方が好きだが、今回のDVDも、現在のR.E.M.の魅力をそのまま映し出している点で非常に良いと思う。それはつまり、現在のR.E.M.が素晴らしいということだ。
1980年結成。四半世紀以上も活動を続け、今が最高の状態だと言えるバンドがどれだけいるだろう。私の知る限り、あとはレッド・ホット・チリ・ペッパーズエアロスミスくらいだ。

やはり。現存するバンドで世界一好きなのがレッチリで、宇宙一好きなのがR.E.M.だな。うん。そう言って悔いなし。

Singer (歌い手)



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