けろよんの日記
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2023年04月18日(火) 笑の大学

「笑の大学」
作・演出: 三谷幸喜
出演:内野聖陽 瀬戸康史
於:4月15日(土) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

昭和15年。日中戦争の真っ只中。
警視庁検閲係・向坂睦男(さきさかむつお)と劇団「笑の大学」座付作家の
椿一(つばきはじめ)が、1冊の脚本を手に取調室の机に向かい合って居る。
非常時においてふざけた芝居は上演させられないと検閲が行われている。
国体にそぐわない表現を容赦なしに排除せよ、書き換えろと
無理難題を要求する検察官とあくまで真正面からの書き直しに
挑戦する脚本家のやりとりは意外な方向に向かう・・・。

検閲官に内野聖陽・座付き作家に瀬戸康史を迎え、三谷幸喜自身の演出で
四半世紀ぶりの上演!まさかの4列目のというプラチナチケットを手配いただきました。ありがとうございます!

 世相は暗いし、設定も陰湿。三谷幸喜といえど、これは笑えるのか???
小首をかしげながら席についたが、会場前の三谷幸喜のアナウンスで
速攻笑ってしまう。それから1時間50分ノンストップ。爆笑につぐ爆笑。
かつてこんなに笑ってしまう舞台をみたことがあっただろうか、、いやない。
脚本はもとより、それを再現する俳優お二人がすごい。

 向坂役の内野さん、なんだか体形まで変わったように見える、、
身体がずいぶんぶ厚くスリーピースの背広に筋肉が満ち満ちている。
最初の5分で、四角四面でガッチガチ。
あ・・・この人ものすごくメンドクサイ人だ(笑)
とは思いながらも、さらっと出てくるプライベートがキュートで
人間味を感じる。(最貧前線とは全く違うタイプのおじさんなんだが)
そして愛妻家っぽい。

椿役の瀬戸さん、なにこれめちゃくちゃ顔ちっちゃ、顔綺麗、スタイルよい、
フェアリーなのかな???
愛想はあるけどトキューサから天真爛漫さを抜いて、もう少し強かな感じ。

 三谷幸喜の脚本、自分にはめちゃくちゃ面白いときと、イマイチ冗長かなと
感じる時があるんだけど、今回は鎌倉殿に続き前者。
思うに、三谷節のしつこさとシェイクスピアなみに回りくどい台詞を
どう演出するか。役者さんがどう演じるかのニュアンスで随分見る側の
印象が変わるのかなと思う。

例えば、台詞の間であったりスピード感であったり、表情、仕草。
今回のように2人しか登場人物がいない場合、
全くごまかしが効かないわけで、、、。まことに役者を選ぶ脚本である。

年齢も性格も目的も全く違う2人が一つの脚本に頭をつきあわせて
あーだこーだしていくうちに脚本がどんどん面白くなってしまってしまう
その過程に笑い・笑い・笑い。
2人の関係性もずっと親しく近しくなるが、気をゆるした脚本家が
「この書き直しは、国家の検閲に対する自分なりの反抗だ」と
打ち上けた途端、ほぼ気のいいおじさんになっていた検閲官が
すっと我に返り、
「この脚本から笑いの要素を全て排除するように」(喜劇なのに!) 
と再び国家権力の仮面を被ってしまう。

気の良い個人が国家権力の名の下に無慈悲な業務を黙々と遂行する怖さ。
この恐怖は決して戦時だけの話ではない。

一方、別な感想としてこのシーン、
向坂が自分のアイデンティティ
(笑いを介さない男、四角四面、検察官としての矜持)
を崩壊させられる男の最後の抵抗だと思った。
自分が全く不必要なものだと上からみていた
「喜劇」「笑い」にいつの間にか夢中になって取り込まれているのだ。
自分は翻弄されていたという自覚に
驚き・怒り・恥辱の気持ちでより厳しい態度で「笑い」をはねつけたように
見えた。

 最終の脚本の訂正は椿の最高傑作として、向坂の最後の牙城を崩したが、
時は既に遅く、椿には赤紙が届き上演は叶わなかった。
なんたる皮肉、そして喜劇は一転して悲劇になる。

この瞬間に向坂は不要なものを全て脱ぎ捨て一個人に戻った。
椿に脚本へのサインをねだる姿は推し作家へのファンのそれにしか見えない。
愛らしく、微笑ましく、そして悲しい。
「この本をなんとしても上演する、だから必ず生きて帰って来て欲しい」と
ファンとして渾身の思いを捧げる。
(すごいファンレターならぬファンワード)
そのためには「戦場では笑いなど考えてはいけない」
と戦場を知る男の凄み。
緩急ないまぜの演技の幅がえげつなく広い。
全てを諦めた椿の投げやりな様子も、向坂の言葉に喜びを隠しきれない。
屈指の名場面に全会場の観客は「椿帰ってこいよ!」と同調していただろう。

脚本家である三谷幸喜は、「この芝居を制限の中で何かを作ること」
ということが本題だとどこかのインタビューで、見かけたけれども。
その何倍もいろいろな意味を持つ舞台だ、と思わされました。

ほんとにいいお芝居を見せていただきました。感謝です!


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