mortals note
DiaryINDEXpastwill


2004年07月25日(日) ちまちま2

「とりあえず入ってみるかね。中を確かめてみないことには何も言えない」
 よっこいしょ、と掛け声をひとつ。サイジョウは立ち上がった。
 言われもしないうちにてきぱきと、ステフが端末を片付け始める。まるで世話女房のようだ。
 ひ弱にしか見えない、全国指名手配中のテロリストの頭目は、まるで隣の部屋に移動するような気安さで洞穴にもぐりこむ。
 レイとハルトはお互いにを見合わせてから、頼りない背に続いた。


―――ねぇ、もう帰ろうよぅ。
 圧迫感のある狭い岩壁にはさまれながら、レイは幼い子供の声を聞いた。
 半べそなのは、自分だ。まだ孤児院で暮らしていたころの。
 十年以上も前の話だ。今も目の前を歩いている幼馴染の腕を、後ろから必死に引っ張っていた。
―――ばっか、ここまで来て帰れるか!
 ハルトは振り返らなかった。鬱陶しそうに、絡みつくレイの腕を振り解く。
 早く荒野を出て帰途に着かなければ、孤児院に戻る頃にはとっぷりと日が暮れてしまうだろう。
 シスターたちに心配をかけるのは嫌だったし、何より、怖かった。
 しかし、この幼馴染は一度好奇心に火がついてしまうと止められないのも、レイはよく知っていた。
 レイが帰る、と言ったところで、彼は一人で残るだろう。ほうって帰るわけにもいかなかった。
 そうだった。あの日、確かにこの細い洞窟を進んで、その先にある遺跡にたどり着いたのだ。

 ぼんやりと、闇の果てに白いものが浮かび上がる。
 それが、わずかな光を跳ね返す鋼鉄の扉なのだと気づくまで、時間は要らなかった。
 現代の科学をはるかに超越した、古代文明の遺跡。ファレスタ山脈で発見した、伝説の聖遺物、


如月冴子 |MAIL

My追加