ぶらんこ
index|past|will
先日インド料理のレストランへ行った。 チキンカレーを口にしていたとき、ある強い芳香を感じた。あまり好きではない、出来れば避けたい感じの。
辛味はそれほどなく、ちょっと意外な、なぜか懐かしい風味だった。 なんだろう・・と思いながら食べていると黒い豆のような殻を見つけ、風味の正体はこれだとわかった。 そして、あっ 山椒だ!と閃いた。 が、本当のところはわからない。なぜなら、わたしはうなぎが嫌いなので、山椒を口にしたことが殆どないからだ。 ただ、あの香りに覚えがあった。ちょっと苦手な鼻をつく芳香。
一緒にいたスカさんに「これは山椒かな?」と訊いてみたが、英語を知らなかったのでSanshoと言った。 しかし彼は山椒という日本語を知らない。なので、うなぎに使われるスパイスで・・と説明したのだが、彼もまた、うなぎを食べない。 よって、その殻の実体が山椒かどうかはわからずじまいだった。 どちらにしても、その殻を丁寧に取り除きながら綺麗にいただいた。おかわりもした。 山椒味はさておき、久しぶりにいただいたインドカレーは美味しかった。さすが本場の味だ。スパイスを豊富に使っている。
山椒というと、母の話を思い出す。 その昔、姉の子供達がまだ幼い頃、夏休みを島で過ごしたときのことだ。
母は東京からやって来た子供達が島の灼熱で夏バテしないように、と、ある日うなぎを買ってきた。 それは屋台でモクモク焼いてるやつではなく、スーパーでパックになっていたもので、温めて食すというものだった。 さて、わたしの母もうなぎが嫌いだ。 なので母は、とりあえず温めたうなぎを見よう見まねでご飯の上に盛って食卓へ出した。
姉の子供達は大喜びだった。「おばあちゃんありがとう!いただきまーす!」そしてお箸を持った後・・・ 「おばあちゃん、サンショウは?」
・・・このとき、母にはその意味がわからなかったそうだ。サンショウって???
子供達はおばあちゃんに説明した。食べる前にね、サンショウって粉をうなぎの上に振りかけるの、そしたら美味しいの。 母はパックに入っていたあの小袋のことかと思いそれを手渡した。すると子供達はそうそう!と嬉しそうにそれをかけて食べたのだそうな。
わたしはうなぎなんか食べ馴れてないしねぇ・・・サンショウと言われてもわからなくて・・・とは母の弁。 「わらぶんきゃぬ ゆむたぬ きっころっさぬ わんや サンショウちんきゃ しちゅらんかなよ きむさげさー っち うむいかた」
なんとも哀愁漂う母の思い出話である。 あぁ 山椒のあの風味が苦手なのは、この話を聞いたせいでもあるのかもしれないな。
と、この話をスカさんにもしたのだが、残念ながら、わたしや母の持つ「哀しみ」みたいなものは彼には伝わらなかったと思う。 それは、彼がうなぎを食べないからでもあるし、山椒を口にしたことがないからでもある。 そして何より、わたしたちが味わってきた「暮らし」を彼が同じように味わうことが出来ないからだ。
けれどもそれはなんら悲しむべきことではなく、むしろその違いを「想像」する楽しみになり得る。筈。 笑
***
余談だが検索してみたところ、カレーにはインド原産の「南洋山椒」というスパイスがよく使われるらしい。I knew it!
|