ぶらんこ
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2004年10月02日(土) 別れ

大好きなひとが遠い国へ行ってしまう夢を見た。
わたしはそのひとを見送るために空港まで来ていた。
ロビーには大勢のひとがいて、彼と話をするどころか、近くへ行くことも出来なかった。
ほかにも知っているひとが何人かいた。
けれども、誰とも言葉を交わさなかった。
皆、笑っていた。
わたしもぼんやりと笑っていた。

わたしは彼からの手紙を読みながら、遠くから彼を見ていた。
手紙の内容は彼らしい言葉で綴られていたのだけれど、随分と立派な便箋にプリントアウトされていて、
彼が今ではとても偉い地位にいることを感じさせた。
もう草そりなんかに乗って一緒に遊ぶことはないのだろう。
馬鹿みたいに笑って。帽子を飛ばして。どこまでも続く青い空で。

でも、それはそれで良いことのように思えた。
手紙には、「緊張するまでもないけれど、面倒ではある」といったことが書かれていた。
「連中がわかってくれるかどうか・・・天にまかせるしかないね」とも書かれていた。
わたしは彼の仕事のことをよくは知らない。
でも、きっと何もかもうまくいくだろう。
わたしは、いろんなことをわからない人間だけれど、そういうことはわかるのだ。

そうこうしているうちに彼らは皆、搭乗口へと誘導された。
ちらり、と目が合ったような気もしたけれど、違ったかもしれない。
とにかく、わたしは何も話さないまま、そのひとを見送った。
悲しいような、特別なんともないような、変な気分だった。


帰ろうかと思ったところへ、3人の老人がやってきた。
わたしを見るなり何やら話しながら、わたしの傍までやってきて、どやどやと隣に腰掛けた。
―耳が遠いのだろう。
彼らは大きな声で話をはじめた。これからシアトルへ行くらしい。

「もう寒いんでしょうね」
わたしがそう話しかけると、ひとりの老婆が目を大きく開いて言った。
「え?あなた、シアトルのどこにいた、って?」
「いいえ。シアトルには行ったことはありません。ただの想像です、寒いだろうなって思って」
おかしなことを言う子だ・・・そんな顔で見つめられた。
説明すると尚のこと話が混乱しそうだったので(それにわたしの英語はそんなに上手ではない)、わたしはただ笑ってみせた。
「あなたも一緒に来るといいのよ。だってシアトルにいたんでしょう」
さっきと別の老婆がそう言って笑った。
わたしは「ええ、そうですね」とだけ応えた。


しばらくして3人は搭乗口へと誘導された。
「車椅子でないと行けないわよ。中は広いんでしょうね」老婆たちはそう叫びながら奥へ進んで行った。


あの飛行機がシアトル行きだったのかどうか、わたしにはわからない。


marcellino |mail