限定鼓動

2004年03月02日(火) 何で

外科へ消毒の為に向かう。
自分で作った、馬鹿な傷の為に。

受付から外科の待合へと歩く。
車椅子の人、片足を失った松葉杖の人
頭は包帯で覆われ、車椅子を押す付き添いの掛ける言葉にも反応しない人
生きていけるのか、と一瞬思う程、痩せ細った人
待合で、泣きそうになりながら子供を抱き締める人
擦れ違う人たち皆、どうにかしたいんだろう。
皆、生きたいと願ってるんだろうか。
ここにいる皆、足掻いてるんだろうか。


同じこの病院で、あたしの叔父は死んだ。
笑顔や笑い声の聞こえるこの病院にも
間違いなく地下にある、霊安室を知っている。
なのに、何でだろう。
何で、こんな馬鹿な真似をするんだろう。
叔父は、元気になりたい、と云ったのに。
動くことすらできなくなった身体で、生きたいと願っていたのに。
それを、見ていたのに。

何で、
何であたしはこうなんだろう。
何で、必死に生きてあげられないんだろう。
スタスタと歩いて、誰の手助けもなく待合まで行けて
そうして自分で傷つけた右手を縫合してもらう。

何て、馬鹿な真似。

生きる為に切ってきた。
生きている確認だった。
そんなのは、後から取ってつけた理由だ。
あたしは何も考えていなかった。
初めて剃刀を手首にあてたあの日から。

内科の病棟へと続く廊下を見ては、まだ、涙が溢れるのに。
生きたい、と足掻いた人を、
死んでしまうんかなぁ、と泣きながら呟いた人を
それこそ息苦しい程の思いで見てきたのに。
それなのに、何で。

何で、死にたいと願ってしまうんだろう。


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陽 [MAIL]