プープーの罠
2009年01月07日(水)

natural bone lovers

年末にヒマをしていたら、
違う部署の人が仕事をくれて、
簡単な仕事だった
のだけどご丁寧に打ち上げをしてくれた。

クリエイティブ部のオブリくん。
カミ君や木山君の同期だ。


予約してくれたというお店に向かう途中
駅前に変わった形のビルがあり、
通りすがりに
おもしろい形ですよね
と何気なく言ったら
入ってみようか
と、彼は迷わず入っていき、
寄り道に付き合ってくれた。

スペーシーなエスカレーターを
登って
また下りる。

くるくるしたくせ毛の黒髪と
ブラウンにカラーリングしたアゴヒゲ、
いつも眠そうな顔つきをしていて
鼻にかかった声で随分おっとりと話す。
背が高いのに背筋がぴっとしてて
育ちがいい感じがする。
少女漫画から飛び出てきたような男の子。


さてクリエイティブ部の彼、
私はその仕事内容に興味があった。

私に頼まれたのは本当に簡単な仕事で、
手が足りないから
というより
他に制作できる人がいないから
といった感じだった。

モノを作らないクリエイティブ部って、
何をクリエイティブしてるんだ?

聞いてみれば内容的には「企画」。
クライアントに商品自体を提案して、
それが通ればクライアントはその商品を開発し、
当社でそのパッケージをつくる。
メーカーじゃないのにそんなところから口出せるのか。

楽しそう。


一通り彼の仕事の話を聞き、
そして私の仕事観の話をしていた流れで
彼は唐突に言った。

浅田さんは結婚願望ありますか?
結婚はあまりぴんとこないけど
子供が欲しいです。

僕は結婚したくないんです。

そんな感じはする。
甘く優しいのに目付きが時々すごくドライだ。
内側がまるで見えない。

でも彼は私のフィールドに下りてきている。
20代後半の、結婚を意識しないわけがない年頃の私の。

あまり深く考えずに毎度ながらの定型文で答えたのに
子供についての見解を根掘り葉掘り聞かれ、
彼の理想の家庭のあり方を聞かされ、逆に私の方が戸惑う。

私のことが
どう
こう
ではなく
彼の資質が自然とそうしてしまうのだろう。

この人女の子大好きだ。
研究に余念がない。


時間を見て
そろそろ帰りましょうか
とそのまま店を出た。
あの、お会計は、
大丈夫です、今日は奢りですから。

そうじゃなくて。

ちょっとトイレ、と立った時に
精算を済ませていたのだろう。
若いのに何てスマート。

今の会社の交際費精算が
どれくらいのレベルか知らないが、
社内同士だし まだまだ若い平社員だし、
自腹だとしたら年下の人に奢られるのはちょっと申し訳ない。


駅に向かう途中に
路に面した料理教室があった。
彼はぽやんと立ち止まり
僕も料理習おうかな
と言った。

料理教室行ったらモテモテですよ、
結婚相手探すならいいんじゃないですかね、
通ってる人は少なくとも料理できるってことですし

と私も立ち止まる。

ひょろりとした印象だけど
背が高いだけあって
絶対的に私より大きい。
長いまつげを下から見上げる。

僕お皿洗うの好きなんですよ。
実家なのに家事するの?
友達の家とかで鍋とかした時に。

やっぱりこの人女の子大好きだ。
ツボを心得てる。

雰囲気だけで言えば草食系男子風情だけど
彼女がいても毎週合コンに行く。
結婚願望がなくても花嫁修行
している人達の中に飛び込みたがる。


ごはんを食べた後はガムをくれた。
ミントを食べるとくしゃみが出る私は
手のひらにぽつんと載せられたそれを
これはからいかしらとちょっと考える
か、考えないかの一瞬で
彼は何かを思ったらしく
甘いのもありますよ
とさっと反対側のポケットから
ブドウ味のガムを取り出して置き直す。

人をちゃんと見ている人。
きっとみんな恋しちゃう。

ソワソワ気分を味わって随分楽しかった。

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「プープーの罠」 written by 浅田

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