2007年10月27日(土)
台風の目
香さんが結婚式をしてその 二次会に呼ばれた。
会場前で会った福田さんと一緒して 受付を済ませ中に入れば同窓会のような雰囲気。 職場結婚なので現役から辞めた人まで 知ってる人ばかりが100人近く。
もちろん早稲田君もいるわけで、 私は努めてそばに近寄らないように配慮し、 香さんを祝福する。 なるほどお似合いの二人だ。
二次会は大いに盛り上がり その流れのまま三次会へ。
幹事をやっていたヨーコさん達と同じテーブルにつき、 後から入ってきた人のためにテーブルをくっつけ奥へつめ
るとそこには早稲田君がいて なんと同じテーブルになってしまった。 しかし二次会の最後に煽られて一気 飲みしたらしく、潰れて爆睡していた。
私の隣りは中村君。 私と入れ違いでニイボシさんのチームに入った、 私より二つくらい年下の人だ。 早稲田君のお気に入りの後輩であり、 こういう場にはまったく出てこない城さん に代わって何かと二人一緒にいる。
人懐っこくて芸人のような3枚目を気取っている けれど妙に繊細なので私は好きだ、 甘い大根下ろしとか 刻み葱の入ったたまご焼き みたいに好き。
何かにつけてボケをかまし、 周囲の人にツッコミを強要しては いざつっこまれると凹むという厄介な性格、 真隣りの私はすべてを受け流していたが それはそれで結局凹むらしい。
浅田さんのこと、嫌い 私は君のこと好きよ
そう言ってでこぴんを しようと構え中村君はぎゅっと目をつぶり構える。 私はきりきりと指を構えて待ち中村君が もういいか? と力を抜き目を開けた瞬間を狙いばちんとやる。 あいたっ と またぎゅっと目を閉じた中村君を私がひゃっひゃと笑い 私のこと好きになった? と聞く。
私のこと好きになればいいのに。
だいぶみんなが出来上がってきた頃、 早稲田君は急に気持ちが悪くなったのか がばっと起き上がりトイレへ駆け込んでいった。 大丈夫かしらね なんて他人ごとのように話して いたら私の向かいにいた福田さんが中村君に言った。
ほんとに酔っていたのかなー 気まずいからだよねきっと 同じテーブルなんかに座られて あてつけっぽいっていうか。
中村君は何も知らないのだろう、 話が飲み込めないらしく
ん?何が? え、聞いてないの早稲田さんから 何を? まぁ、 私の口からは言わないけど後日 本人が教えてくれると思うよ 早稲田さん、意外と口軽いから
酔っていて自分の声がどれだけ大きいのか判らないのだろう わざと私に聞こえるように言ったのなら大したものだ
でも確定、 早稲田君はやっぱり福田さんには話してるのだ。 じゃあアイさんは?ヨーコさんも知ってる? 誰がどこまで知ってる?
うすうすは感じていたにしろ 急に目の前にしっかりと 悪 意 として現われた事実に 私は静かにパニックの中へ墜ちて行く。
もう帰らなきゃ
立ち上がったところに早稲田君が戻ってきた。 早稲田君から逃げるような案配になったが それもさして誤解ではない。 福田さんはもう私と目を合わせようとはしなかった。
えっそうなの。もう帰るの。 中村君だけが呑気にそう言った。 うん、もう帰る
私がいなくなったらきっと中村君にも話すだろうね そしたら中村君は私のこと嫌いになるかな 人懐っこい中村君も、 よそよそしくなるのかな 別に他人にどう誤解されてもかまわないけれど、 中村君に誤解されるのは
やだな
浅田さんまた遊ぼうね
私はまたでこぴんを構えぎゅっ と閉じた中村君を見据えた。
うんまたね
また、はきっともうないだろう。 そう思いながら指を思いっきりはじいた。
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