プープーの罠
2006年07月23日(日)

花火舞い散る

私はまた一つの賭けをしていた。

みんなで花火に行くことになっていて
主催はカナコさん、彼女は早稲田君にももちろん声をかける。
むしろ彼が真っ先で
私は成り行き上で香さんにたまたま誘われた。

メンツを聞かされてそこに早稲田君がいる
ことが分かってから私は早稲田君に幾度となく念を押した。

 浴衣を着るから見てね。ちゃんと来てね。

彼の反応は始めから乗り気ではなく
真っ先に誘われてその場で
 面倒だから
とカナコさんに断りをいれたくらいで
だから私はなおさら来させたかった。

待ち合わせの時点で早稲田君から
どうしようかな〜と浮かないメールがきて
 一緒に花火を見ようよ!
とまた誘ったけれど返ってきた返事は
 遠いし面倒だから今日はやめます
だった。

『私のために来て。』

食い下がって駄々をこねてもそれは変わらなかった。


会場に着いて場所を取りながら
明るいうちからみんなで飲む。
横でカナコさんが早稲田君とメールをしているのを眺めている。
来ないってさ
と残念がる彼女に
そうなんだ〜と生返事をする。
彼女はその後もちょこちょこと彼にメールを送っていて
みんなの浴衣写真送ってだって〜!
などと嬉しそうに言ったりして
いたのでケータイを借りて
彼女と香さんの浴衣姿を撮ってあげ、
彼女はそれを早稲田君に送った。
どうしようもなくみじめな気分をじっと味わっていた。


カナコさんと早稲田君に特別な何かがある
わけではないのは知っている。
でも私がそういうただの同僚である彼女達と同じく
彼にとっては特別でも何でもない存在
だったことを思い知らされた。がっつりと。

花火を見た後
飲みに行こうという周りに、
 浴衣を着てたら疲れたから
と告げて早々に切り上げ、
降り出した雨の中、雨宿りもせずにうちに帰った。
ずぶぬれのまま浴衣を千切るように強引に脱ぎ捨てて電話をする。

私は賭けをしていた。
今日彼が花火に来なかったらきっぱりと別れる。

何でそうなるわけ?
何で勝手に賭けて勝手に別れを決めるわけ?
そんなに別れたいわけ?
二人だったら行ったよ。浴衣だって見たかったし。

カナコさんの浴衣でも眺めてたら?
何?嫉妬してるわけ?
そんなに見て欲しいなら自分で写真撮って送ってくれればいいじゃん。

俺は不満ないのに何かとすぐ別れたいって喚かれて
どうすりゃいいのか分かんないんですけど


私は譲れない二つをあげ
せめて遅刻と歩きタバコはやめて
と言い、返ってきた答えは
遅刻は不可抗力
歩きタバコは自分のモラルではアリ

なんだそうだ。
自分が気に入らないからって勝手な価値観を押しつけるな
だそうだ。

歩きタバコの何がいけないか説明して
人に当たったら火傷するでしょ
じゃあ人がいなかったらいいってことでしょ?
30にもなってそんなことも分かんないの?

全否定だね。
揚げ足ばっかり取って
いいところ見ようとしてないよね
あぁ俺だけに努力しろってわけね
どれだけ偉いんだよ


私も悪いところ直すから言ってよ
だからさ、俺は不満ないんだって。
強いて言うなら
そうやってこまかいことでいちいち俺に干渉しないでくれる?


いいところってどこ?
どう歩み寄れっていうの?
遅れてきても文句を言わず
家でタバコ吸わせたらいいの?


泣きわめく私、
電話越しでも伝わってくる
イライラした空気は言う。

「めんどくせぇヒステリック女」

この関係は何なの?
別れる以外の選択肢って何?
続ける気がないのは私なの?

索引
「プープーの罠」 written by 浅田

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