プープーの罠
2006年03月07日(火)

白いキューブ

風邪を引いてあたまがぼぅとしていたので
定時で仕事を切り上げて横
になっていたが
いつの間にかそれが偏頭痛にスライドしていて
眠れなくなってしまった。

私は偏頭痛持ちである。
孫悟空の金のワッカのごとく
じんわりと頭蓋骨を締め上げるような
痛みはすべての気力を殺ぐ。
偏頭痛は、脳が肥大して神経を圧迫する
からと聞いたことがある。
人類の脳の容量はこの痛みと共に増えていったのかしら
なんて思ってみたりもするが実際
のところは知らない。

遡って思い出せば
中学校2年生の時にはすでに偏頭痛の記憶がある。

母親は、無気力に横たわる私が学校を休む
ことを頑として許容せず、どんなに苦痛で
あろうが私は家を追い出され学校へ向かうしかなく、
まぁ1,2時間もすれば母親もパートで家をあけるので
ぷらぷらして時間を潰していれば舞い戻れる
のだけれど、皮肉なことに私の家は学校まで徒歩5分の距離で
道草する方が面倒であり、偏頭痛ならなおさら
そんな元気なことをできるわけもなく
素直に登校せねばならなかった。

しかし最後の悪あがき、
ギリギリに行って門を閉められてしまおう
そうしたら正当な帰る理由ができるからね、
だって私のポリシーは「遅刻をしない!」だからね、
遅刻をするくらいなら休むからね!

チャイムを聞きながらますます歩くスピードを緩め、
ダッシュして門に駆け込む背中を悠長に眺めている

も、先生は急かしもせずただ
私が門に入るのを静かに見届け、
一列に並ばせられ生徒手帳を取り上げられ
ている他の生徒の前を素通りする私を見送る。
靴を履き替えながらそっちにチラと目を向けると
先生もまた私の様子を見守っているのだった。

そして私はそのまま保健室へ行き、
頭が痛いです、とベッドに潜り込む。
保健の先生は何も言わない。

消毒液の匂いのするこの狭い空間と
固いベッドで、受け入れようが立ち向かおうが
楽にはならない偏頭痛の痛みに身を委ね、
ただじぃっとしている
だけ。

時々ドアの開く音がしては、
カーテン越しに聞こえる不良達の仮病のいいわけ、
先生は私を迎え入れた時と同じ物腰で
今、浅田さんが寝てるから。と言う
と、不良達は声を殺して何かを答え、
静かにまた出ていく。

先生も不良達もそれぞれに後ろめたい解釈をもって
私の一挙手一投足を誤解し、保健室のベッドにいる私
を邪魔するとまるで厄でも起きるかのごとく、
至極デリケートに扱った。
それは偏頭痛に似た鈍痛を私にもたらし、
私はやはりただじぃっとしてそれに耐えるしかなかった。

偏頭痛で横になると今でも時々
この頃のことを思い出す。

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「プープーの罠」 written by 浅田

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