2006年02月03日(金)
城さん
豆の数を数えるように 私は向かいに座っている人の顔をしげしげと眺めて 1、2、3、4…とほくろの数を数えていた。
仕事帰りに、城さんと二人で飲んだ。
城さんは同じチーム ではあるけれど この前の歓迎会も来なかった のでマトモに話したこともなかった。
この日、彼は何だかむしゃくしゃしていた様子 で、職場の人を手当たり次第に飲みに誘って いるのを聞いていた けれど、あまりにも知らない人過ぎて まさか私にも言っているとは思わなかった。 たまたま帰りが一緒になり そのまま飲みに行くことになった。
すでに終電の時刻、 オールナイト飲みコースになるのは必然、 このあからさまな「誰でもいい」感、 私は、知らない人と飲むのが好き。
基本的に人の目を見て話す のが苦手 なので、顔に目印がある人は話しやすい。 この人の場合、数が多過ぎて 今までほくろの存在自体に気付かなかった。 むしろ、ろくに見たことすらなかった りして。
「ところで、じっと見るのはクセですか?」 と戸惑ったように言われて 「ほくろが多いですね。」 とそのまま答えた。 「浅田さんは全然ないですね。」 「そばかすは多いのですが。」 今度は指を差してひとつひとつ押し数えてみた けれど、6つくらいでどうでもよくなってやめた。 そういえば私にもひとつ、 付き合った人にしか見えない ところに、ほくろがある。
城さんは自身を エゴイスト、 と評した。 自信に溢れているのは傍から見ても分かる。 でも寂しそうなイメージ。 ただ一人カリカリと野心に燃えて、 貪欲な感じがする。
そういうところが、 学生時代の友人達に似ている。 クリエイティブに憧れアートに夢見ていたあの頃。 私がここ数年目を背けているブリリアントなもの達。
良くいえば 夢溢れた、 悪くいえば 青臭い、 と、いったところですが、 コトナカレで無難に仕事をこなし、 極力メンドクサイことを避ける周囲に馴染まずに 反骨的にその感覚を保ち続けているなんて こういう人こそ 至極 真っ当 な人間 なのではないかという気がして来る。
「浅田さんは仕事早いですけどけっこう荒いですよね。 ちょっとがっかりしたんですよ。」
あら正当な評価をできる人がこんなところにいた。
「よく見てますねぇ」 「俺、小人が見えるんです。」
30になったばかりの男は臆することもなく言った。
人の目には小人が住んでいて そいつらはその人の性格そのものの顔をしている。 俺は人の性格は見ただけでだいたいわかるんですよ。
時々小人がいない人もいる。 浅田さんのは見えない。 目の中の奥の奥に隠れていて 気配はあるのに掴み所がない。 そういうタイプは 俺の昔からの友達にも多いです。
この人はおんなじだ。 この人を覆い込んでいるものはフラストレーションだ。 また刺激しあい研ぎすましあえる仲間を探していて、 人事に口出し、つかえない人を切り捨ててきた。 私も周りから見たらこんな風に見えていたのだろうか。
でも、今の私は違う。 消耗して壊れて投げ出した。 同調しても相容れない。
氷点下を記録した明け方、 反対方向の電車同士 お互いが一人で待つ時間が極力短く なるよう、何本かの電車を見送り 寄り添って待つ。
両手で頬を覆われて 「寒いですか」 と尋ねられる。
大丈夫ですよ と答えながら私はまた ほくろを数え始め、 やっぱり6つ目でやめた。 6つ目は目のすぐ下にあって、 辿っていくと、自然と見つめあう形になる。
少なくとも半日前まではお互いに何とも思ってなかった。
この人が、 私のほくろを見つける 時がいつか来たりするのかなぁ と、思ったりした。
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