プープーの罠
2005年09月17日(土)

巣立ちのツバメ

心電図を眺めていたら
ウワバミに丸呑みにされたゾウの絵を思い出した。

おばあちゃんが倒れた。

と、父親から連絡があったのは出社前のことだった。

 一命は取り留めたけれどもう手の施しようがない
 手術をしてもうまくいって植物状態
 しなくても同じなら無駄に切って体力を奪わない
 方がいいからしないことにした
 とりあえず知らせておくけど
 今は落ち着いてるから山だ峠だとか
 今日明日死ぬってことはないから

 でも生きてるうちに会ってやれ
と言われた。

しばらく呆然としていたけれど
遅刻しないようにそそくさと会社に向かい、
いきなり早退することになるやも知れないので
一応上司に伝えておく。

 危篤なので、

危篤という言葉を口にして自分で動揺した。
私は随分はれぼったい顔をしていて
上司はそれを見た瞬間、ぎょっとした顔をした。

 今すぐ行かなくていいの?
 大丈夫です

大丈夫なわけはない
危篤だ。

けれど私が泣き腫らしたのは昨日の晩のことであり、
おばあちゃんに関してはリアルな感覚に何も響いてはこなかった。
とりあえず今日の仕事をこなしてから病院へ向かう。

首から下は小康状態
むしろただ眠っているだけに見える。
意識はもう戻らない
頭の中は出血でぱんぱんに膨れ上がっていて
時々胃に溜まった血を吐くらしく、
チューブが鼻に挿さっていたけれど
人口呼吸器を使わずとも
案外たくましいくらい呼吸をしていて
吸って
吐いて
吸って
吐いて

ウワバミが規則正しく列をなしている。

おばあちゃんは生きてる。
もう二度と目は覚まさなくても。

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「プープーの罠」 written by 浅田

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