プープーの罠
2004年08月07日(土)

猫が啼いている明け方の雑踏の中で。

休日はぐうたらと時間をつぶす
クセがついてしまい
例によってごろごろと
日が暮れるまでベッドの上。
朝から起きているのに
何も食べていやしない。

一人で食事をするというのは
どうも面倒臭いのである。

どうしようかなぁ
と、思いつつも
起き上がる気配もなく
相変わらずベッドの上。

とりあえずシャワーを浴びて
しゃきっとしてからまた考えよう
と、だらだらと身体を洗い
上がる頃には貧血気味で
やはりベッドに逆戻りである。

何やってんだかなぁ。

最近存在が薄いケータイに手を伸ばすと
メール着信に気づき、それは
オオサトさんからだったのでした。

メールをもらってから大分あとに
電話が来て、一緒にご飯に行く
ことになりまして、待ち合わせをし
ラフな姿の彼はやはり見慣れない。

「ごめんなさい。終電まであんまり時間ないですね。」
「今日は奥さんいないから時間は大丈夫。」

携帯を気にしない姿は初めてでしょう
また、
翌日が仕事じゃないというのも、
休日にわざわざ待ち合わせて会ったのも。

そもそも私が仕事を辞めた時点で
彼のこの気まぐれは終わるんだと思っていた。

美味しい和食をごちそうになり
2軒目、ショットバーでスコッチとダチョウの肉を食し
3軒目、居酒屋でまったり飲む。

夏のせいなのでしょうか
親しい人との食事となると
胃が萎縮して食欲がなくなります。

会社は相変わらず目まぐるしいようです。
私の後釜はもう辞め、
派遣もあまりに使えないから、と打ち切り、
さらにもう一人辞めたらしい。

昨日森君と飲んだので
だいたいのことは聞いていた
けれど、人が違うとやはり見解は違う
もんだなぁ、と思いながら
私は今初めて知ったかのように
へぇ〜とかはぁ〜とかいちいち相槌をうった。
「ところで森とは連絡取ってるの?」
「えぇまぁ。」
「仲いいよな、なんだかんだで。」
「付き合い古いですからね。」
「何か言ってた?」
「特には何も。」
「つじさんは?」
「最後に会社で挨拶したきりです。」
「そっか。」
私はもう部外者なんだから
そんなスパイのような詮索をしたって
何も意味がないのに。

それから今の会社のことを聞かれ
 通勤時間が長いのがキツイです
とどうでもいいようなことを答える。

 じゃあ新宿に引っ越せばいいじゃない。
 何で新宿なんですか
 そしたら便利じゃない。
 そうですけど家賃高そうだし。
 大丈夫だよ。うちの会社の向かいのマンション借りなよ。
 もう働いてないのにそんな近所に住んでも意味がないんじゃ…
とオオサトさんの方を見たら真顔でした。

向かいにあったマンションは見るからに安くない
そして独り暮らし用ではない。
うっすらと何を言っているのか理解し
私は話題を変えた。

日も昇る前にオオサトさんが
 もう帰ろうか
と言う。
あれ?
始発まで飲む
のかと思っていたので
いささか拍子抜け。
ぷらぷらと明け方の道を並んで歩く。

「なぁうち来いよ。」
「はい?行きませんよ」
「どうして?」
「奥さんいるじゃないですか。」
「だからでかけてていないよ。」

そういう意味じゃなくて
ですね、

奥さんという存在そのものですよ。


結婚してなかったなら家に行っていた
かも知れないけれど、
結婚してなかったら
果たして私は
今日の誘い自体に乗ったのでしょうか。
彼の 結婚してる故の余裕
というのが、私にはやはり心地がいい。

結局適度にちやほやされて
都合良く甘えられる状態
に、浸かっていたいだけ
なのです。

ぷらぷらしているうちに
結局 空が明るくなっていく。
どこからともなく
始発に合わせて人が駅に流れ始め
その流れにたゆたう。
オオサトさんは改札まで送ってくれて
そうだ俺もSuica買ったんだよと言う。
JRなんて乗る用がないって言ってたのにね。

不倫をするほど私は弱い人間ではない。
ともすれば恋人という存在を必要としていない。
けれど、次は
変な遠慮をしなくていいような
ちゃんとした恋愛がしたい
とは思ってます。

索引
「プープーの罠」 written by 浅田

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