プープーの罠
2004年06月14日(月)

距離をゼロにはしない。

みんなで飲みに行く。
最近飲む度に朝日を見るので
今日は早く帰ろう
と、言っていたのにやはり飲みすぎる
オオサトさんとふたり。

私はオオサトさんの愚痴を聞き、
会社のこれからを一緒に考える。
けれど、私の見ている会社のビジョンに
私自身はいない。

「いつも他人事みたいに話すよね。」
「他人事だから客観的に冷静に見てるんですよ。」
「そりゃそうだね。」

私は業務委託を更新するつもりがない
ということはオオサトさんに言っている。
それまでに後ガマを探してください
という、せめてもの誠意だ。
私のモチベーションの低さに比例せず
私の肩に乗っているモノは意外と大きい。

 なぁ
 浅田はどうしたい?
 どうしたら辞めない?
 給料あげたらいいの?
 社長を辞めさせることはオレには無理だよ。
 でも口を出さないように説得することはできる。
 そしたら浅田も
 かなり大変になる
 と思うけど。
 浅田が本気で仕事するとこ見てみたいし
 ヤル気になったらいくらでもやりやすい環境作るから。

私はグラグラします。
彼以上に力になってくれる上司
に、これから先 果たして
巡り合えるのでしょうか。

けれど、彼が 尊敬できる人 であればあるだけ
自分が見えていない中途半端な状態のまま
仕事に本腰を入れたくはないのです。
迷惑をかけるのも
失望されるのも
嫌われるのも
嫌なのです。

答えを見出せない私の
左手をウーロンハイのグラスごとぐっと握り、
 まぁいいや。仕事以外の話をしようか。
 せっかく二人で飲んでるんだしね。
彼は笑顔を見せ、私の手からウーロンハイを奪って飲み干す
と、
テーブルに置いていたオオサトさんのケータイ
がメール着信を知らせ
明るく光る小窓に名前が見える。

奥さんの名前。

彼は少しケータイを持ち上げ
それを確認して
そのまま開かずにまたテーブルに置き直す。
私はそれと同時に立ち上がる。

「じゃ、帰りましょうか。仕事の話も済みましたしね。」

外はまだ暗かった。
少し飲み過ぎた気配、
手をつないでプラプラ歩き、
ふとオオサトさんが立ち止まり、
おいでと引き寄せられて
それが無闇に慣れているかんじ、
スムーズに抱き締められる。

鼻と鼻が触れるくらいの距離
オオサトさんは無感情な顔つきで
土曜日の浅田とデートしたかったなぁと呟き、
私はそれを無視して
少し目線をずらすと
頬を撫でるように顔を向き直される。
彼は目が合うことにまったく怯まない
目をそらさない。

 なぁ
 どうしたら付き合ってくれる?
 離婚したらいいの?
 でも独身だったらこうはいかないんでしょ?
 それなら今の方がマシかなぁ。
 何か納得いかないわ。
 なぁ、どうしたらいい?

仕事の話をする口調と何も変わらない。

そして私も
自分のことにしろ仕事のことにしろ
何一つマトモに答えられやしない。

クラクラする。
これはもう飲み過ぎだわ。
ぼんやりと至近距離にあるカオを眺めてみる。
ちっとも ドキ ドキ しやしない。
ハニちゃんはもう寝ちゃったかしら
とか、考えながら

こういうのはこれで最後にしましょうか
と言う。

空が黒味を失い
徐々に明るく浮かび上がっていく。

その薄い色の目は
闇のように感情を覆い隠していて
何を考えているのかわからない。
まるで黒猫のような人だと思った。

索引
「プープーの罠」 written by 浅田

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