2006年10月18日(水) |
「デュランダル:durandal」5 |
おおおおーっ。紋章官達のファンファーレと共に、控えから競技場に出た騎乗のセルピコを、観衆の怒号の様な歓声が迎えた。
「………」
よく晴れているとは言い難い日だったが、グレートヘルムの限られた切れ込みからは、外の光は眩しかった。これから紋章官の口上と共に、馬丁に馬を引かれて競技場を一周する。儀礼的なお披露目だったが、これから行われる見せ物に皆興奮しているのだ。いや、こんな殺し合いの見せ物は、人間が出てこようが、クマやライオンが出てこようが、同じ熱狂と歓声でむかえられたろう。 馬に揺られながら、この場にいる自分を不思議に思った。どうしてこんな事になってしまったのだろう……。確かに発端は決闘騒ぎと、相手からの嘲笑にファルネーゼ様が不用意に発した言葉だったが、彼はなんと言って侮辱されたのか憶えていない。バルベリーニ卿は決闘の相手ですらなかった。決闘相手の仲間であっただけ、ただ一言口にしただけ。セルピコが気にもとめない様なことを言っただけだった。 馬丁が観衆を見てセルピコを無言で促す。そうだった。彼が盾をあげて観衆に挨拶を送ると、いっそうの熱狂でもって歓声がこだまする。 いと高き方々には、胸に手をあてる仕草をして、深々と礼を。高貴の人々は、礼を確認して鷹揚に頷いた。 栄えあるかな、ヴァンディミオン。世界を平に保つ方、四葉のシロツメグサは、高貴なるお子の数にして、富と幸福を呼び込む印、称えよヴァンディミオン……。 紋章官って気楽そう……。セルピコ自身には褒め称える事が無いので、紋章官はさっきから。ヴァンディミオン家の先祖やら何やらを称える事に費やしていた。優れた人材を見分けるに長けたとか言ってたっけ、僕の事かな、それ。セルピコはげんなりした。 馬に揺られて、視線だけをヴァンディミオン家の席に向ける。ヴァンディミオン卿フェディリコは、この戦いで自分の勝利を望んでいるのだろうか?それとも死ねば幸いと思っているのだろうか? 緊急の爵位授与に呼び出された時、フェディリコから感じたものは殺気などでは無かった。ただ、困惑。目の前にいる者は、己の息子であるというのに、何故こんな存在が居るのか?と理解出来ない、そんな空気…。セルピコとは目を合わせず、急の事であるがトーナメントに恥ずかしくない様取りはからったと告げた。この人が父親なのか…。セルピコもまた困惑する。母も同様である様に、とても血の繋がった父とは思えない。セルピコは、これらの人々から産まれたという実感がわかなかった。 僕が勝ったら儲け物、負けてもそれは平民出の騎士なぞ所詮そんなもの、そんな処かな。ファルネーゼ様は僕が負けたらどうするかしら。つまらなそうにセルピコの骨を火にくべて、マーブルストーンの下に埋めるかもしれない。それで十分だ。そう思った。 そろそろ紋章官の口上がつきる。この次は、馬上槍試合の一騎打ち。この競技では勝ち負けは無いし、ランスは相手の身体にぶつかれば、すぐに裂けてしまう物を使う。様は前座の見せ物、真打ちはその後に待っている。
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