小ネタ日記ex

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もう恋じゃないと思っていた(デス種/シンとルナマリア)。
2007年12月06日(木)

 だから俺にしておけばいいのに。









「アスカ小隊長、クリスマスのご予定は?」
 同じ中隊の女性士官は、士官食堂で顔を合わせる常連だ。白いテーブルを挟んだ真向かいで突然問われ、シンはスプーンを持ったまま目を瞬かせた。
「クリスマス? たぶん、シフト通りだけど」
「あ、そうなんですか」
 じゃあ、と紅潮した頬でさらに言い募ろうとした彼女に気づかず、シンは脳内カレンダーを捲った。
「でもどっかのパーティーとかあるだろうから、警護担当で呼び出されるんじゃない?」
 首都警備隊とも呼ばれる部署のシン・アスカの日常は、一般のイベント事が発生する日ほど忙しい。現状戦時下ではなく、大規模な戦闘行為も行われていないが、国家首脳陣がテロ組織に狙われる可能性はゼロではない。
 モビルスーツのエースパイロットとして名を馳せたこともあるシンだったが、二十代に入ってからは地上勤務が増えた。
「そう…なんですか」
 藍色の髪を肩少し過ぎまで伸ばし、ゆるやかな巻き髪にしている女性士官は先ほどと同じ台詞を力なく呟いた。あれ、とシンがその差異に気づいたときは、彼女は苦笑気味に笑う。
「勤務じゃ、しょうがないですよね」
「あ、うん」
「それじゃあ、また」
 まだ食事が残ったままのトレイを持ち、軍服の彼女は立ち上がって会釈をした。見慣れたグリーンの軍服が去っていくのをポタージュスープを飲みながら眺めたシンは、一体何なのだと首を傾げる。
「…女心のわかんないバカねぇ」
 涼やかな声が、呆れがちにシンに向けられた。
 軽く上体を捻って顔を向ければ、明るい色の髪をした女性士官が冷ややかにシンを見ていた。ラベンダーブルーの双眸がそのくっきりとした顔立ちをより一層華やかに彩る。
「…どゆこと、ルナ?」
「クリスマスの予定。折角誘われたんだから、まだ予定は立たないぐらいの気遣う台詞言ってあげたら?」
 明らかに一般女性よりは多い分量の食事を載せたトレイを持ったルナマリアは、空いたシンの前の席に堂々と座る。
 彼女の指摘され、やっと先ほどのクリスマス云々の会話の流れがつかめたシンは「あぁ…」と曖昧な返事をし、食事を再開させる。
「いいよ別に」
「アンタのことじゃなくて、彼女のほうよ。どうせ独りなんだから、たまには若い子と遊んでもらいなさいよ」
「…おばさんクサ」
「なんですって、このお子様が」
 睨みつけながらも、ルナマリアにはシンの子供っぷりを鼻で笑う余裕がある。実年齢はいくつも変わらないが、彼女のこの姉のような懐の広さは士官アカデミーの同期生時代から全く変わらない。
 一時は恋人とも呼べるほど近くにいた関係だというのに、結局はこうして姉弟のような位置づけに落ち着いたのは、シンの稚気とルナマリアの情深さが影響したのだろう。そばにい続けるには、お互いまだ友愛の思いのほうが強すぎた。
「仕事、どう?」
「んー異動したばっかで、まだ慣れないとこはあるわね。でも色々忙しくて刺激的だし、飽きなくて面白いわよ」
 近況を尋ねたシンに、ルナマリアはフォークとナイフを動かしながら快活に答えた。
 忙しさをただの疲労とは言わず、刺激的だと言い換える彼女のその前向きさに、シンは思わず頬を緩ませる。彼女のそういうところが昔から好きだった。
「ルナはしっかりしてるから、どこ行ってもやってけるよなー」
「そりゃ、気に入らないところに矛突き刺して回るシンとは違いますから?」
「はいはい、問題児はどこ行っても問題児ですから」
「わかってるじゃない」
 くすくす笑うルナマリアの優しい声がシンを包む。
 ああここがお互いの私室とかだったら、髪とか撫でられたのかな。そんな気持ちでシンも笑い、落ち着いた空気が流れた。
「…ルナはクリスマスどうすんの?」
「さあ、シンと一緒でシフト次第でしょ。仕事か寝てるか、友達と飲み行くとかすると思うわ」
 さらりと答えたルナマリアは、切ったハンバーグをフォークで口に運んでいる。グラタンのエビをつついていたシンは、彼女のそのあっさりした口調に不思議さを感じた。
「あれ、噂の青年実業家どうなったんだよ」
「終わった話よ」
「……………」
「…また終わったのかよ。続かないよな、ルナは」
「うるさいわね」
 うつむいたまま呟かれ、シンは黙った。いつも強気のルナマリアに泣かれると弱い。よもや職場の食堂で泣き出すほどの女ではないが、悲しそうな顔は見たくない。
「…というか、なんでシンがその話知ってるの」
「ん?」
「青年実業家。私、シンにその話したことないけど」
「メイリンから聞いた」
 あのおしゃべり、と眉間に皺を寄せながらルナマリアは妹の口の軽さを唸る。その困ったような顔が妙に可愛らしく、シンは彼女に気づかれない角度で苦笑した。
 過去のことを考慮しているのか、余計な口を挟まれたくないのかはわからないが、ルナマリアは現在進行中の恋愛話を絶対にシンには言わない。シンが彼女の口から聞くのは、すべて終わった恋の話だ。
「…いいのよ、もう、終わった話なんだから」
 何も訊いていないというのに、ルナマリアは何かに言い聞かせる口調で言った。
 恋破れる原因が何であったのかシンは訊く気にはなれない。相手の人柄や職業、ルナマリアとの相性、いきさつや過ごした時間。そんなものはどうでもよく、今はただ少なからず傷ついた様子だけが気に掛かる。
 明るくて快活、強気で情深く、綺麗でやさしい。シンにとってルナマリアの美点はそれらで占められている。多少口うるさいとか言葉がきついとか、そんな欠点はあっても、それら含めた彼女が好きだった。
 また俺にしとけば? そんな言葉を胸にしまって、シンはグラタンのエビを一つルナマリアの皿の端に置く。
「ほら、俺のエビやるから元気出せよ」
「…あのね、食べ物あげれば機嫌良くなるとか本気で思ってるの?」
 このお子様。
 呆れ半分、やさしさ半分でルナマリアが笑う。
 ラベンダーブルーの瞳は真っ直ぐにシンを見ている。いつもそうやって、彼女はシンをたしなめ、シンを肯定する。
「だってルナ、食べるの好きじゃん」
 子供じみた言い方をすると、ルナマリアが笑ってくれるのを知っている。自分のために。それをわかっていて、シンはいつも彼女の寛容さに甘えてきた。
 この気持ちは、もう恋じゃない。たぶん。
 そのことに一抹の寂しさと切なさを感じながら、それでもシンは何でもない顔をして彼女のそばにいる。会いたいとか声が聞きたいとか、そんな甘えは一切出さない顔を作ることはもう慣れた。
 ばかねぇ、と言葉とは裏腹に笑う、いつまでも大事な人。
「…クリスマス、予定空いてたら俺といる?」
「いて下さい、でしょう?」
 いいわよ、と快諾した彼女の心が今どこにあるのかシンは知らない。わかるのは一緒にいるときの居心地の良さだけだ。昨日今日知り合ったような人間には出せない空気と、親密な時間があったからこその安堵感。
 また恋に戻すのは簡単かもしれないが、そうしたくもない気持ちもあった。
「クリスマス、かぁ」
「シフトが合うといいわね」
 何の気も無いようなあっさりした声音で言うルナマリアに、シンは心中の複雑さを込めて苦笑がちに笑ってみせた。









***********************
 ……………久々すぎる。すいません。
 たぶんデス種後のシンとルナマリー。
 私はあの二人のカプリは「えっちょっ待って…!」という感じで受け止めたので、彼氏彼女としてはそのうちうまくいかなくなって自然に友達に戻る、ぐらいの道筋を想定してました。そしていつまでも未練があるのは絶対にシンだと思う。
 そして捏造と妄想に走る。種で誰が好きかっていったらシンなのです。

 そんな旧作になった運命の主人公はさておき。マルが二つのアレですが、未だ一話も観てません(………)。
 レンタルを待つよ私は。
 そういえば種の映画版はどうなったのでしょうか。




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