小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
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Night and Knight(種/キラとアスラン)(Fateパラレル)。
2007年04月20日(金)

 この夜、運命に出会う。









 月夜の墓地には、昼間の雨の匂いがまだ残っていた。
 葉桜になりつつある春の夜半。少年が一つの墓石の前で佇んでいた。刻まれた家名は彼が名乗る家のそれであり、墓碑の一番新しい名は女性のものだった。
 手入れだけは人に頼んでいたが、実際に足を運ぶのは十年ぶりだ。十年ぶりに戻った街はどこもなじみが薄かったが、両親が存命だった頃から年に数度訪れていた代々の墓地だけは記憶そのままに少年を迎えてくれた。
 夜の風が、どこからか花の香を運んでくる。かの人の匂いを思い出したように、細身の少年はかすかに笑んだ。

「ただいま、母さん」

 呼びかければ、心の中で応えが来る。おかえりなさい、と波のようなやわらかな藍色の髪をした人が、彼に向かって微笑みかけてくる。
 キラ、と母は少年のことを呼んだ。あの声を少年が失ったのはもう十年も前のことだった。
 ざあ、と一度だけ風が強く吹く。墓地の主要な道筋にだけ点いていた電灯が点滅し、不意に消える。奇妙な不安を覚え、少年がその紫の双眸を墓石から逸らしたとき、月光に長い影が伸びた。

「キラ・ヤマトか」

 問いかけではなく、断定の声は青年のものだった。満月より少し欠ける程度の月の光を背中に受けながら問いかけるのは、古風な長衣を纏った青年だ。
 しかし、青年の最も異質なところは、腰に佩いた長剣だった。刀身は長く、真っ直ぐで、柄の形から西洋剣であることがわかる。キラは目を瞠った。
 逆光だというのに、青年の目が碧に光る。
 相手は人間ではない。
 キラの中の血がそれを悟ったとき、影が動く。
 咄嗟に身を引くと、鼻の先寸前を剣の切っ先が薙いでいくのを感じた。

「お前は、キラ・ヤマトだな…!」
「え!? ちょ、ちょっとま」

 待って、という言葉は剣をキラの眼前に構えたまま睨みつけてくる碧の目に封じ込まれた。あと一歩相手が踏み込んでくれば間違いなく切られる。
 思わず両手を上げながら、キラは叫んだ。

「そうだよ、僕がキラ・ヤマトだ! わかったら剣を下ろして、セイバー!」

 彼は『セイバー』に違いない。稀代の魔術師の不肖の息子でも、それだけは直感的に理解できた。
 数秒、キラは青年と見つめあう。肩近くまである、夜の闇に溶け込みそうな深い紺色の髪と、光を透過する碧の双眸。身長はキラより頭一つ近く大きい。外見の年齢は二十代半ばというところだろう。怜悧な印象が強い、襟が詰まった紅の長衣を着た美丈夫だった。
 青年はキラをじっと見つめた後、戸惑ったように剣を下ろした。

「なぜ、お前が俺のことを知っている」
「母さんから聞いてる」
「母さん?」
「カリダ・ヤマト。君の前の主人は、僕の母さんだ」

 青年の碧の目が、痛みをこらえるように鋭くなった。
 それを見てキラは逆にほっとする。人外の存在に自分のことを認めさせるのは難しいが、母の名は信頼の取っ掛かりを見つけるのにうってつけだ。
 魔術師という職業がある。ファンタジー小説の中の職業ではなく、人間が物見遊山で月と地球を簡単に行き来できるようになった現在でも彼らは確かに存在し、新聞には載らない事象の中で生計を立てている。
 そして、キラが今いる地球上のこの街は、魔術師たちにとってことさら特別な土地だった。
 剣を収めはしたものの、青年はカリダ・ヤマトの名を聞いてもキラを睨みつけたまま、低い声を出す。

「…それなら、カリダから聖杯戦争のことは聞いているか」
「直接は聞いてない。だけど、母さんが残してくれた日記と文献で、君たちのことは知っている。セイバー、これは君の名前じゃないんだよね」
「聖杯戦争を勝ち抜くためのクラスだ。真名ではない」
「…ここに帰ってくれば、きっと君に出会えると思ってた」

 確信を込めて、キラは笑んだ。不敵に見えれば良いと思いながら青年を見る。
 夜風にかすかに揺れるキラの髪は栗色で、母であるカリダとは容姿が全く似ていない。名前を先に知っていたとはいえ、目の前の剣使いがキラのことを前の主人の息子だと即座に認めてはいないことを感じていた。
 月の光に照らされた墓地に、少年と青年は互いを見据えて動かない。

「手に入れた者の願いを叶える聖杯。手に入れられる権利を持つのは八人の魔術師。魔術師たちは属性が異なるサーヴァントと呼ばれる英霊を従えてある特定の期間をこの街で戦い、残った一人が聖杯を手に入れられる。そして君はそのサーヴァントの一人、クラスはセイバー。何か違ってる?」
「…違わない。付け加えるなら、お前のサーヴァントは俺だ。カリダの頃からそう決まっていた」
「知ってるよ。母さんのとき、君を召喚したのは母さんと僕の二人がかりだった。会ったことはなかったけど、君は例外的に二人の主を持つサーヴァントだ」
「……………」

 気難しげな青年の眉が、どこか嫌そうに寄せられる。
 それはそうだ、とキラはどこか冷静な思いで苦笑した。誇り高い英霊の魂を持つサーヴァントたちは、基本的に隷属することを好まない。だというのに、召喚の際手伝ったというだけで本来の主の息子に従わなければならないというのは、誇りが許さないのだろう。
 それでも、キラにも叶えたい願いがある。そのためにこの街へ戻ってきたのだ。

「不本意かもしれないけど、それでも僕に従ってもらうよ。これは母さんの代からの契約だ」
「…普通なら聖杯戦争が終われば、すべてのサーヴァントは消えるはずだった。俺もカリダが死んだとき、そうなるはずだったんだ」
「ところが僕がいた。僕が生きていて、僕らは繋がっていたから君はずっとこの街にいた」

 そうやって十年、君は僕を待っていた。

「叶えたい願いがある」

 訴えるように、キラは強く言った。
 聖杯戦争の極意は人殺しだ。八人の魔術師たちは文字通り殺し合い、最後の一人になるまで戦わなければならない。開始時期は決められていても、終了時刻は決まっていない。最後の一人が決まるまで、戦わなければならない。
 そこに到達するまでの犠牲や苦痛、労力、それらを覚悟しても尚、叶えたい願いがある。

「守りたいものがある。だから僕は、僕の運命の騎士に会うためにこの街へ帰ってきた。
 ―――アスラン。
 母さんは君のこと、最期までずっと心配していた」

 気負わず、キラは母から譲り受けた騎士の本当の名を告げる。
 一瞬苦しそうに顔をゆがめた騎士が、キラの母のことを主として大切にし、やるせない思いを抱いていたということがわかる。母が逝ったあのとき、守り手であるはずの騎士はそばにいなかった。

「…お前は、俺のことを知らないと思っていた」

 ぽつりと、碧の目の騎士が呟いた。

「なんで」
「あのとき、まだ子どもだっただろう」
「七歳過ぎてれば魔術師だって半人前ぐらいにはなってるよ」
「半人前で何がわかる。どうせ今でも半人前じゃないのか」
「あれから留学して本場できっちり修業してきたよ。そりゃ、十年もかかったけどさ」
「…十年間も待たされた」

 ふと、騎士が穏やかに笑った。冷淡な顔つきが緩み、細められた双眸が思いがけずやさしげにキラを見た。
 会えて嬉しいのだと、相手も感じていることにキラは気づいた。
 キラよりも背の高い青年が、その手を伸ばし、キラの頭をぽんと軽く叩いた。

「戻ってきてくれてありがとう、キラ」

 目を瞬かせたキラの右手を、彼は掲げるように利き手で持ち上げた。

「ここに再度契約を交わそう。俺は君が手中にする聖杯のために戦う。異存はないな、キラ・ヤマト」

 凛とした揺るぎのない声が夜の静寂に伝わる。
 掲げられた右手の甲に契約の印が刻まれるのを見つめながら、キラは後戻りはできないことを感じた。それでも、運命の騎士は目の前にいる。

「うん。一緒に戦おう、アスラン」

 アスラン・ザラ。
 それは英雄と大量殺人者の名だった。幾度も繰り返された宇宙戦争の中、味方に称えられ、敵方に憎悪された一人の青年。その魂は今も戦いの地に縛られ、解放されないままでいる。
 母の最期の願い。忠実な騎士に心安らかな永遠を与えること。その願いを、次代を継いだ息子として果たしたい。
 人にあらざるものであっても同じぬくもりを与えられる手を握り返しながら、キラは月の光の中で微笑んだ。









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 パロディでパラレルです。
 種で、Fate/Stay nightパラレル。
 PS版発売ということでふと前考えた内容を思い出したので書いてみました。趣味に走るとこうなります…。
 ただし大変本元設定をいじくり倒し、説明のややこしいところを簡略化し、あまつさえキャラに説明台詞として喋らせる、というダメな方法を使ってます。すみません…。
 Fate原作沿いでいうと、どっちかっていうとこのキラは遠坂さんちっぽい感じですかね。士郎ちゃんみたいに正義がどうのをキラにやらせると長々しくなるので、すっきりさっぱりさっさとキラ様化してるようなイメージで。

 それにしても私は何だかんで、種で好きなのはアスカガと双子と、アスキラなんだな、と。要はあの三人がいればそれでいいのかな、とか。

 そういやPSPですが、5月のFFT発売前にさっさと買ってしまうことを決めました。
 やっぱりあればあるできっと使うと思うのですよ。そして気づいたら兄と妹がそれぞれ持っていて、二人とも持っててずるい! と。
 




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