小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
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春の花(鋼/ロイとグレイシア)(その他)。
2007年04月10日(火)

 それはただ薄紅の。








 目を伏せた一瞬で、彼の視界は吹雪に見舞われた。
 花吹雪。強い春風が大佐の肩章を打ち据える。白とも見まがう淡くあわく色づいた花弁は華麗に青い軍服の周囲を舞う。
 墓地へと続く並木は、いま春の訪れを告げる花が咲き誇っていた。晴天の青さに向かって枝を伸ばす木々に無限を錯覚させるほど花が溢れている。
 まるで故人が彼らの来訪を喜んでいるかのようだった。
「良い花だ」
 ふ、とロイが唇をほころばせると、亡き友の愛妻はそれこそ花がほころぶように微笑んだ。
「ええ、わたしもそう思うんです」
 あの人もきっとそうだと思います。
 そう続けたまだ黒い服の彼女の言葉には、故人への確かな愛情が滲んでいた。
 ロイの亡き友が愛した彼女は、夫がこの風景を愛することを微塵も疑っていない。恋人から夫婦へ、そして親子三人の暮らしへ。そんなごく当たり前の家庭の雰囲気と、良く晴れた春の日に見る薄紅の花は、印象がとてもよく似ていた。
「生活は慣れましたか」
「ええ、何とか。両親もまだ居りますし、あの子もいますから」
「それは何よりです」
 他愛のない会話を交わしながら、墓参の道を歩く。ロイの軍服の青と、彼女の弔いのための黒だけがこの春に似つかわしくない重苦しい取り合わせだった。
 それでも一時は涙を隠そうとしなかった彼女が、ほんの少しでも微笑んでいることに彼は安堵する。いまは亡い人が愛した笑顔をこれ以上曇らせるのは、あまりにも惜しい。
「いい奴ほど早く死ぬ。この間、そう言われました」
 ふと、思い出し笑いのように彼女が言い出した。
 おかしそうな口調が気になり、ロイが視線を向けると、隣の彼女はくすくすと口に手を当てながら笑っていた。
「あの人、ちっともいい人なんかじゃなかったのに」
「…確かに」
 性悪や根性曲がりの質ではなかったが、善人かと言われれば首を傾げる。面倒見は良いが、人並みにルールを破って平然とする狡さもあった。
 士官学校時代、どれだけの校則破りを共に犯しただろうか。まだ十代の頃の青さを思い出しながら、ロイは未亡人の意見に同意した。
 揺れ惑いながら落ちてくる淡い色の花弁を目の端で追いながら、そういえば士官学校の練兵場にもこんな花が咲く木があったことを思い出す。
「でも時間が経てば経つほど思うんです。いい人だなんて生きてた頃は全く思ったことがないのに、今思えばそんな人だったかもしれないって」
 彼女の声はそう大きくない。けれど、涼やかに春の空気を横切ってロイの耳に届く。
 にじみ、あふれ出る愛情。花咲き誇るような思慕。目を伏せがちな横顔の美しさは、かの人だけのものなのだろう。
「…愛してましたか」
「はい」
 心のままに尋ねた声は、彼の想像以上の喜びを伴った即答で返された。
 ただ咲く花のようにうつくしく、ただ散る花のように自然に。
「あなたがあの人を想うように、私も」
 夫の最期が無残なものであったとしても後悔をしていない。それは彼女なりの決意なのだろう。それはロイの決意と同じものだった。別れがどうであれ、出会いも、過ごした時間も、好いたことを後悔したことは一度もない。
「…そうですね」
 切なさを帯びた心で淡く笑む。
 友への想いは、恋や愛と呼ぶにはあまりにも曖昧で、ロイ自身にも今はもうわからない。あの感情の名を見失ったまま、あまりに早く彼は逝った。隣を歩く彼女との彼を巡るたたかいも終着の方法を永遠に失った。
 花は毎年この道で咲き誇る。けれど愛した人は戻らない。そしてまた来年も二人でこの道を歩く。
 軽く息を捨って前を見据えた青年の視界に、春の花が散っていた。









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 何年かぶりにマスタングさんを書いたよ…。
 う、嘘くさっ! …というのは自分が一番よくわかってます。資料見ないで書いたので、微妙に違ってる箇所とか捏造については目をつぶっていただけると助かります…。
 本当に久々に書いたら三十分もかかってしまった。

 ちょっと前に、鋼で活動中の友人しらすさんが「桃色ピンクな話が描きたい」と言っていたのですが、内容聞いてみたら「強●」とか「本気浮気」とか「不倫」とかそういう単語が飛び出し、その場の全員が一致して「それは桃色ピンクじゃないよ!」という結論に達したので、ここはいっちょ桃色ピンクがどんな話か実演してみよう! と思って今回のロイさんになったのですが。
 ………大佐と未亡人のどのへんが桃色でピンクなのか私にも申し訳ないが説明できません。
 頭の中にはおそらく墓場の桜のイメージしかなかった(それ桃じゃない)。
 結構むずかしいな、桃色ピンク。

 私の中で桜の花というと、潔癖で清廉なイメージです。
 キャラでいうと、たぶんテニスの手塚が一番それのイメージに近い。清く正しく美しく、そして強く潔く。
 桃色というと、まあありがちに種のラクスさんですね。桃色の歌姫。あとギアスのユーフェミア。桃色の皇女。

 桃色ピンクはそのうちまあ頃合を見てリベンジしてみたい。正しい桃色ピンクとは何ぞや! というのを証明してみたいんだ!(しかし何のキャラで書くかは全然考えてない) 




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