小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
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夏の箱(種/シンとアスラン)。
2006年07月30日(日)

 夏の風物詩であることは聞いたことがあった。









 割れ物につき取り扱い注意。
 赤い文字のシールが貼られた箱がシンのところに届いたのは、夏に入った非番の日の午後だった。一抱えほどの箱。軍雇いの業者が持ってきたその箱の宛先は、ザフト官舎街、シン・アスカ殿。
 受け取った黒髪に紅い目の彼は、送り先の名前を見たきっかり五分後、赤い上着を引っ掛けて官舎を飛び出していた。

「な、何考えてんですかあの人はぁ!?」
「……カガリか」

 服装規定に引っかかりそうな格好で執務室に飛び込んできた黒髪の部下を前に、アスラン・ザラは泰然と椅子に座りなおした。
 シンが『あの人』と呼んでアスランのところに駆け込んで来るとすれば、まず間違いなくオーブのお姫様絡みだ。
 普段からあまり収まりが良くない黒髪を一層乱し、前ボタンを留めていない軍服からはアンダーシャツがのぞいている。これが公務の場ならばまず服装を正した上で、説教を始めるところだ。
 アスランの脳裏に、とても楽しそうにシンへの贈り物を選ぶ金髪の彼女の姿が浮かび上がる。

「お中元だな。ほら、伝票に書いてある。少し時期が遅れたが、あの国にそういう風習があることはお前も知っているだろう」

 お中元。
 中元とは、太古の暦で言う七月十五日のことだ。宇宙暦以前の中国大陸で発祥した道教の習俗であったが、後に別の宗教と混同され、死者の霊を供養する日とされている。この時期に世話になった人へ贈り物をすることを、シンの出身国では『お中元』と呼ぶ。

「いつぞやはお前に世話になったから、ということなんじゃないのか?」
「イ、イミわかんないですよ!? なんで俺? え、うわ、嘘でしょう!?」
「…落ち着け」

 シンは封も切っていないベージュの化粧箱を両手に持ったまま狼狽している。
 私用ということで気を楽にしたアスランは、机に頬杖を突いてそんなシンを見守る。シンは大して大きくもない箱を自分から遠ざけたり近づけたりしながら、視線を四方八方に彷徨わせている。
 カガリも、大した魔性の女になったものだ。箱一人で一人の男を右往左往させようとしている。

「シンの正確な住所と好みを教えてくれという依頼があったから、答えておいたんだ。中は見てみたのか?」
「またアンタですかッ!!」

 ぐわっとシンが顔一杯に、怒りとも憤りとも知れない表情を作った。面白い顔だとアスランは思ったが、頬杖を外さずに眉だけを若干動かした。

「アンタとは何だ。俺が上官ということを忘れるな、シン・アスカ」
「部下の個人情報売っといて何か上官ですかアンタは!」
「官舎に住んでいる以上、お前の住所は個人情報に当たらない。だいたいお前の情報を売る売らないを決めるのはザフトの軍規ではなくて、俺だ」

 俺の好きなようにして何が悪い。
 右の頬杖をやや傾かせ、呟いたアスランの言葉にはやさぐれた空気が漂っていた。
 その様子に、シンはおや、と思う。

「あのー…アスランさん?」
「何だ」
「なんか、不機嫌ですか?」
「別に。いいんじゃないか? カガリは妙にお前のことが可愛くて仕方ないみたいだし、何せ元国民だし、知らない国で不自由な思いをさせて負い目があるみたいだしな。素直に受け取っておいてやってくれ」
「…別に俺はこういうのが欲しいわけじゃないし、可愛がられたくなんかもないです」
「俺はもらってない」
「は?」

 頬杖を外し、背筋を伸ばしたアスランの緑の目が真剣だった。

「オ レ は 、もらっていない」
「……………」

 嗚呼この人も疲れているんだな。シンはそう思った。
 そういえば秋の組織改変を前に、何かと調整や会議などでここ数週間はほとんど高級仕官用の官舎に戻っていないという話を聞いたことがある。その合間にプライベートの連絡や、通常任務をこなし、出張に出ている。アスラン・ザラの体力は底無しなのかもしれないがそれでも限界があるのだろう。

「…あの、これ、いります?」
「いらん。アイスコーヒーの詰め合わせだ。好きに飲むといい」
「……………」

 道理で大きさの割には重いはずだ。伝票が張り付いた箱を見ながら、シンは鬱陶しげに伸びた髪に指を差し入れている上官を眺めやった。

「あのー、なんであの人は、アスランさんにはないんですか?」
「古馴染みすぎて、今更お中元もお歳暮もない。その代わりに誕生日とクリスマスがある」
「…どっちもずいぶん先ですね」
「まぁ、別に今更な」

 微妙に明後日のほうを見ながら、アスランは口元だけで笑っていた。
 この人も、本気で想い人からの時節の贈り物が欲しいわけではないのだとシンにはわかっていた。ただ、妙にカガリがシンに何くれと世話を焼きたがるのが複雑なのだろう。
 シンとしては祖国のお姫様に淡い恋心すら抱いたことはなく、これからも決してないと誓える。しかしアスランの心とは、全く次元が違う問題だ。

「とりあえず、突っ返さずに受け取ってやってくれ」
「…俺だけ貰うわけにはいかないですよ。プラントに来た元オーブ国民は俺だけじゃないんですから」

 こういう償いの形が欲しいわけではない。箱を抱えながら、シンは受け取ったときとは別のところで途方に暮れた。
 彼女が、ずいぶん前から自分のことを気にしてくれているのを知っている。個人的に知り合ってしまった、オーブの元国民と現国家元首。苦い繋がりばかり彼女とシンの間に横たわる。

「…そうか」

 シンと目を合わせたアスランは、先ほどのやさぐれた雰囲気ではなく、ただ穏やかに微笑した。

「そういうことなら、俺から返しておこう。…たぶん、彼女は単純に知人としての立場からだったんだろうが、考えが甘かったな」

 公私の区別をつけていなくて、すまなかった。
 椅子を立ち、シンの前に立ったアスランはシンの手から箱をそっと取り上げた。すまない、と言った声音にはシンへの労わりと、カガリの行動について一旦の責任を負うものが滲んでいた。
 どうしてあなたが謝るんですか。シンは軽くなった両腕を感じながら、アスランの態度に少しいらついた。
 決して、あの箱は不愉快だったわけじゃない。戸惑い、狼狽したけれど、遠い祖国から届いた贈り物は初めてだった。遠い血縁はまだあの国にいるけれど、あの人が初めてだった。
 何を思い、何を考えて、彼女はあの箱を選んだのだろう。
 シンは誰かに物を送る習慣はほとんどないが、それでも相手が喜んでくれることを願って物品を選ぶ気持ちは理解出来る。
 送り返したら、あの金の姫はきっと寂しがる。悲しむのではなく、寂しそうな顔をするだろう。いつか、シンの部屋で見せた横顔と同じように。

「…やっぱり、いいです」
「え?」
「それ、俺貰います」

 遠ざかりかけていたアスランの前に行き、シンはその箱をもぎ取った。象牙のようなベージュ色は簡素で、伝票の宛名は手書きだった。
 シン・アスカ殿。この宛名を書いたのは、彼女本人だろうか。

「やっぱり貰います。それで、俺からこういうのは止めてもらうように言います」

 他人任せにするのはずるいことだ。彼女の好意も償いも、それに答えを返すのはシンが直接すべきことだった。
 決然と顔を上げたシンの赤い双眸に、アスランがそっと笑うのがわかった。

「そうだな。そのほうがいいか」
「はい。一々、すみませんでした」

 ぺこりと頭を下げ、退去しようとしたシンはふと思いつき、アスランの執務机の上を確認した。今は特に書類などは広がっていない。

「あの、隊長はアイスコーヒー飲めますよね?」
「あ、ああ」
「じゃあ俺これ今淹れてきますから、一緒に飲んで下さい」

 一人で部屋で飲むよりも、そのほうがいい。
 そう決めたシンは、アスランの答えを待つ前にさっさとドアのほうへ脚を向けた。

「すぐ戻りますから!」
「おい、シン!」

 シンは、たとえアスランが嫌がっても絶対に飲ませてやるつもりだった。
 そして彼女には、上司と部下という関係にある以上、部下だけが物品を受け取ったら人間関係に差し支える事実をしっかりと伝えねばならない。男というのは、意外なところで嫉妬深いのだ。
 ありがとうございますと言うのは、社交辞令だ。
 廊下を歩きながら、シンはお礼状の文面を考える。給湯室はすぐそこだった。









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 …いつ振りの種なのか。
 シンが好きです。シンとカガリを絡めるのも好きですが、シンとアスランの組織の中での関係を書くのも好きです。双子も(以下略)。

 ちなみに私の中で、デス種の終盤あたりの記憶はすでに薄れています。知りません見てないもん知らないもん(しっかり見てるくせにどうなのそれ…)。
 種に関しては妄想の世界でいいとこ取りして楽しみます。種作家さんは素敵作家さん率が高くてうはうはですよ。しあわせだー。

 忘れがちなのですが、この日記は有料版なのでお金払って借りてます。
 その更新月がそろそろなのですが、最近の日記の書いてない有様に非常にもったいなさを感じました。
 なので、せめて土日ぐらいは出来るだけ書いていきたいな、と。




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