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もしもの話をしたとして(種/アスカガ)。
2005年02月25日(金)
たとえば、もし。
「…ここじゃない場所で会えてたら、どうだったんだろう」 「ここじゃない?」 聞き返した彼に、金の髪の彼女は遠くを見るようなまなざしで笑った。 「ああ。…ヘリオポリスみたいな平和がずっと続いてて、あそこにいたキラたちみたいに」 平和であることが『普通』な世界で。 ただそこで笑って、ときどき忙しいけどほとんどが穏やかで。 「ほら、学校とかで会ってさ」 「…クラスが同じだったり?」 くすりと小さく笑った彼の緑の目がやさしかった。 「うん。…同じクラスになって、クラブとか入ってて…」 「……………」 弟からわずかに聞いただけの、彼の学校生活を彼女は懸命に思い出す。 学校帰りに友達と買い食いをしたり、目的はないけれどもたくさんの店を覗き見したり、分かれ道で立ち止まったままずっと話をしたり。 少なくとも、明日の命を思って泣かない日々で。 「……そういうところで、会いたかった」 彼女の伸ばした手が、彼の服を掴んだ。離れていくのを拒むように。 「会わなきゃよかったなんて絶対思わないけど、もっと、もっと…」 もっと違う、素敵な出会いをしたかった。 出会うそばから命の取り合いをしたり、銃とナイフの向け合いではなく。 「…………」 元より器用になれない彼は、何も言えなかった。 彼女の痛みは手に取るようにわかった。出会いを素直に喜べないきもち。平穏な舞台で、幸せな出会いが出来なかった自分たち。だから結局こうして離れる道しかなくて。 そっと彼は服を掴む彼女の手を取った。ちいさく、あたたかな手。この手のぬくもりこそが命だ。 「…それでも俺は、幸せだと思う」 言葉が正しいかどうかわからない。けれどせめて、自分の心にもっとも近しい言葉で彼女に伝えたかった。 ゆるゆると顔を上げた彼女の金褐色の目に、浮かび上がる水の膜。 引き寄せて抱きしめて目を閉じた。ほんの少しでもこの思いが伝わってくれればいいと願った。 「君に会えて、幸せだと思ってる」 かたちは悲しいものだったけれど、後悔はない。この手に守るものの重みを教えてくれたひと。 「ありがとう。…君に会えてよかった」 二度目の言葉。一度めのあの日は、こんな風に二人の未来を思う猶予はなくて。 嗚咽を漏らしながら抱きしめ返してきた彼女が、今のすべてだと思った。
************************ 何か小ネタの材料はないかと探した挙句、リサイクル。デス種始まってしばらくとかそういう時期だと思う。少なくとも8話はまだやってなかった。 名前がさらりと出てないので、書いたときの意識がわりと想像出来ます。漠然としたイメージだけでつらつら書いたんでしょう。そして微妙。
…ほんとは今日はロングレインの6話めを書き終えるつもりだったんですけど。明日です。小ネタで予告ってあんまりしたくないような気もするんですが。
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