小ネタ日記ex

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彼と彼女と彼らのそれぞれ(笛/三上と渋沢ヒロイン)。
2004年11月21日(日)

 その日、彼はいたく不機嫌だった。








 腕を組んだまま椅子に座り、黙り込んで数十分。
 普段は穏やかで人好きのする優しい雰囲気を持つ彼が、年に数度あるかないかの不機嫌丸出しの空気を背負っている。彼の席は教室でも後方のあたりに位置を占めていたが、撒き散らす空気のせいで必然的に教室内の視線を集めていた。

「…三上さん」

 こそっとドアの隙間から顔を出したのは、そんな彼の幼馴染みだった。彼女は自分の目的対象のむすっとした顔を確認すると、窺うように三上の顔を見上げた。

「俺は知らねぇぞ。気付いたらああなってた」
「…そうですか」

 珍しいの、と彼女が小さな声で呟くのを三上はドアの影に隠れながら見ていた。
 三上はすっかりあの渋沢のどす黒い空気に気圧されていたが、彼女のほうはそうでもないようだった。奇異なことだと思ってはいるようだったが、おそれる様子はまるでない。
 さすが妹代わり、と改めて彼らの付き合いの長さを三上は感じた。

「なあ、あの超不機嫌の原因、わかるか?」
「何となくは」

 あっさり言った彼女は、片眉を跳ね上げた三上のほうではなくじっと自分の幼馴染みのほうを見ている。

「今日、三年生って風紀検査でしたよね?」
「ん? ああ、抜き打ちでな」
「多分それです」

 ドアの端から身を引き、三上のほうに向き直った彼女は曖昧に苦笑した。

「克朗、髪の色とか言われるのあんまり好きじゃないですから」
「…ああ」

 それか、と三上は渋沢の明るい髪の色と目を思い出す。確かに典型的な日本人の黒髪と濃茶の目とは言い難い風貌だ。
 部活動で、稀に校外の人間に会ったときに渋沢の髪の色が染めているものだと勘違いされることも多い。寮内の者はすでに慣れているが、渋沢克朗を名前でしか知らない人間にはあの色は違和感を伴って見えるものらしい。

「…そんぐらいで?」
「本人にとってはかなり面白くない思い出ばっかりですよ」

 とりあえず、不貞腐れるぐらいには。
 真面目な顔つきでそう言った友人の幼馴染に、三上はもう一度渋沢のほうを見てみる。さっきまでは組んでいた腕を外し、机の上に頬杖をついて窓の外を見ている。

「入学のときに、克朗のお母さんが地毛だって証明書みたいの書いて学校に提出したって聞きましたけど、知らない先生もいるみたいです」
「そんなのあるのかよ」
「はい」

 変わった色だとは思うが、そこまでナーバスになっていたとは知らなかった三上はほんの少し渋沢に同情した。中身はあれだけ優等生だというのに、生まれ持った外見を責められてはたまったものではないだろう。
 自分ならともかく、あの渋沢が地毛だと言い張るのなら本当だと大抵の人間が信じそうなものだが、例外もいるらしい。
 とりあえず、あの渋沢の神経を逆撫でしたアホ教師がいたらしい、と三上は記憶に刻んでみた。後でサッカー部の情報網を駆使して探し出し、部を上げてイジメ抜いてやる。

「うちの部長に文句つけるたぁ、いい度胸だよな」
「…サッカー部って、どうしてそういうところは熱いんですか」
「面子だ面子。部長バカにされて黙ってられっか」

 そこになぜ男の集団を結びつけるのか、それが彼女にはわからない。
 一つ言えるのは、渋沢克朗はあの部で非常に慕われているということだ。そして、閉鎖的なエリート集団は自分たちの一部の侮辱もすべて全体への挑戦とみなしている。日々厳しい練習を共にしている彼らの連帯感は外からの人間には絶対わからない。

「じゃ、お前はフォローよろしく」
「何ですか、それ」

 ほれ行け、と教室の中のほうに背中を押してきた三上を彼女が見上げる。

「簡単じゃねぇか。俺らは報復担当、お前は回復担当。慰めは俺の役目じゃねーの」
「…そうかもしれませんけど」
「あと裏付けもしてこいよ。これであいつの不機嫌の理由が昼飯食い損ねたからだった、なんつったら意味ねぇからな」

 何の意味だ。彼女はそう思ったが、一級上の先輩の黒い目に言い返すのを諦めた。
 この人たちは、部長の災難にかこつけて計略を巡らせるのが好きなだけではないのだろうか。

「…わかりました」

 サッカー部の連中と付き合う以上、自分の役目も彼女は何となく理解している。時にはあの部長の精神的なフォローを担うこともあるのだ。

「克朗って、ほんといい友達ばっかりですよね」
「オメーもな」

 何だかんだでも、落ち込んだ相手を励ますことは断らなかった彼の幼馴染みに、三上は軽いデコピンを食らわせながらにやりと笑む。
 その程度の皮肉では動じない三上を、額を手で押さえた彼女が軽く睨んだがやはり三上は気にしない。

「んじゃ、任せた」
「…はぁい」

 どこか気の抜けた返事をした彼女が、ドアの隙間に身を滑らせるのを見送ってから三上は踵を返す。
 まずは、いつものメンバーに報告だ。
 部活以外での愉快な刺激は大歓迎だ。自分たち三年が中心となって、校内で対象を中心とした情報戦を繰り広げるスリルも大好きだ。
 部長に関係するのなら、後輩たちも協力を惜しまないだろう。動かせる人員が多いのは非常に喜ばしい。
 ともすれば同じことの繰り返しになりそうな日常が少し変わったことに、三上亮は口許に楽しげな笑みを浮かべていた。









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 久々の小ネタは、部長遊ばれるの巻。
 どうなんだろうなーこれどうなんだろうなーただ髪の色で悩む渋沢さんが書きたいなとかそういう発想だけだったんだけどなー。
 三上と渋沢ヒロインの組み合わせ、私はわりと好きです。
 これでやりすぎて彩姉さんに叱られる三上でも面白いかもしれません。私が、書いてて(そういう基準ですか)。




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