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きみと歩けば(笛/木田圭介)。
2004年10月25日(月)
どんなときでも彼女は。
秋の夕暮れは釣瓶落とし。あっという間に太陽は西の彼方へ落ちてゆく。 学校を出て数分だというのにもう暮色に支配されかけた空を見上げ、木田はもうじきやって来る冬の足音が聞こえた気がしていた。
「あ゛ー…さ、む、いー」
木田より上の位置から、疲れた中年サラリーマンのようなぼやきが降ってきた。
「もうじき家に着くんだから我慢しろ」 「くっそう、あんたより体脂肪あるはずなのになんであたしのほうが寒いのよ」 「それだけのことに文句言うな」
相変わらず不条理に愚痴を零す無茶苦茶さに木田は慣れきっているせいか、呆れよりも諦めの苦笑しか出てこない。 それよりも、と横を向けず前を見ながら言う。
「…もうちょっと普通のところは歩けないのか」 「こんな半端な高さに壁作るほうが悪い」
道すがらにある住宅のブロック壁の上を彼女は歩いていた。壁とは言っても、確かに存在価値を見出せない半端な高さだ。せいぜい70センチかそこらだろうが、木田の腿ほどまではある。上に乗って歩くのに充分な幅もある。実際小学生が乗っているのを木田も見たことがあった。 かといって、義務教育も終えた女性が歩くには疑問の声は必ず出るだろう。 きっぱりと言い切る姿は、木田には声しか聞こえないが表情は想像がつく。己の判断に絶対の自信を持った美少女は笑っているに違いない。 黙って猫を被れば深窓の令嬢でも新人アイドルでも演じられそうな見てくれのくせに、やっていることは毎度毎度小学生男子並だ。
「…どうしてそういうことが好きなんだ」 「面白いからに決まってんでしょ」
ふふん、と鼻で笑っても、やっていることは余所様のエクステリアの上を闊歩する、に違いはない。 しかも制服姿、しかも決して長くないスカートの麗しき少女。身長の加減で木田が真横を見ると彼女の白い膝小僧がまる見えだ。そこからほんのわずか視線を上げたら、痴漢容疑で交番へ引っ立てられそうで怖い。その前に得意の喧嘩技で殴られるだろう。おかげで前しか見れない。
「わ…っ、っと」
突然、寒い寒いとぼやきつつ機嫌よく歩いていた彼女の重心がずれた。 咄嗟に真っ当に道路を歩いていた木田の肩に手を置くことで、彼女は落下の不運を免れた。木田も慌てて手を添えて細い体を助ける。
「…ほら、調子に乗るからそういうことになるんだ」 「そういうときはあんたがどうにかしてくれればいいのよ」 「……………」
さらりと暴利を貪る発言を述べて、彼女は木田の肩から手を離した。 いつ頃からか伸びた髪が夕闇の中でさらりとなびく。蛍光灯の光も弾きそうな艶のある髪を木田は思わずひと房掴んだ。
「…でっ」 「なら、落ちないようこうして歩くか」 「やめんか!」
烈火に似た気性も露に、彼女は木田の手から髪を取り戻す。急に引っ張られて痛かったのか、わざと髪をさすりながら木田を睨む。
「っとにむかつくわね」 「それでもいいから、普通に歩いてくれ。そのうち大怪我しそうで見てるこっちが怖い」 「やだ」
つんと顔を逸らした横顔は少し子供っぽかった。まったく、と木田は十年一日の如くそう思うようになったが彼女相手に今更思っても仕方ない。この花はこうやって咲く花なのだ。 兎にも角にも、外壁が切れるまではここを歩く気で一杯の彼女に木田は手を差し出す。
「なら手を貸してやるから掴まってろ。そのほうが安心だ」 「…あんたの安心に付き合う義理ないけど」
そう言いながら、そうっと滑り込んできた指先を木田は軽く掴む。まるで父親の気分だ。 歩き出すと意外と手が疲れることに気づいたが、何もしないよりも安堵感が違った。
「…木田ってわりと過保護すぎない?」 「そっちが無鉄砲で非常識なだけだ」 「ちょっと、せめてどっちかにしなさいよ!」
いつもは下から来る声が、頭上から響いてくるのが新鮮だ。 そして怒っても小さく握った指先が離れていく気配がない。言葉と態度が噛み合わないのもいつものことだ。天邪鬼と呼ぶべきかそれとも小悪魔なのか、判断の悩みどころは尽きない。
「無鉄砲か非常識か、どっちか改善してもらえると助かるんだか」 「いーやー」 「ああ、自覚はあるんだな」 「うっさい!」
秋の夕暮れは釣瓶落とし。気づけば落ちきっていた太陽はもうぬくもりを地表に与えてはくれないが、賑やかな帰り道の木田の手の中にはささやかな温度が入っていた。
************************ 風邪も大分よくなりましてこんばんは、遠子です。 私の中の小ネタの基準は『場面転換がないもの』なのですが、長さとしてもこれぐらいが適当ってものですよね。たまに長すぎるんですよね、ハイ。
木田と同級生ヒロイン。高校生ぐらいで。 この二人は気づいたら付き合ってました風がいいな。別に好きだ何だ言わなくても何となく続いてました系。常日頃から喧嘩ばっかのイメージです。喧嘩っていうか一方的に怒るのは彼女。なだめているようでわりと突き放す系の彼氏。でも見捨てない彼氏。毒食うときゃ皿まで食ってやるさ!と開き直りでもいい木田。 圭介さんというとどうしても木田のイメージが先行するため、お余所のサイトさんなんかでよく山口くんと混合します。私山口くん全然知らないんですけどてへ(ごまかしてみる語尾)(…どこかの巻で須釜くんと喋ってたあの子だったっけか)。
今日ひとりで病院に行くために電車に乗ったんですけど、隣のきれいなお姉さんから友人Kザキさんと同じ匂いがしました。あ、いや、ガンダム好きの臭いとかじゃなくてね。 たぶん香水が同じだったのでしょう。帰宅して妹に言ったら変態じみた扱いを受けました。 そういうこともあるって話でいいじゃないか。 しかし大風邪っぴきの私に感じられる匂いって、あのお姉さん相当香りきつかったんじゃなかろうか…(今気づいた)。
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