その女性
叔父が亡くなる前、入院先に付き合っていた女性が面会に来たと聞いた。
いとこは激怒して、そのときの様子を話してくれた。
私は何も言えず、ただ黙って聞いていた。
叔父はこの女性と一時同棲していた。
荷物をまとめ、家を出るまさにその瞬間、偶然私は叔父の家をたずねた。
今も、そのときの恥ずかしそうな叔父の顔が浮かんでくる。
この女性は、病院に最後のお別れをしに来たんだと思った。
通夜、葬儀、斎場での骨上げ。
叔母やいとこは、妻として子供として立派に勤めを果たした。
人が亡くなると、目の回るような雑用に追い立てられる。
ほとんど眠れない状態で、数日を過ごす。
それが悲しみを薄れさせる作用をすると何かで聞いた。
むろん、女性の姿はどこにもない。
叔母側、叔父側の大勢の親戚、叔父の会社関係者、友人。
隣近所の人多数。
それは、世間的な一般常識的な集合体で、愛人関係の人間の出る幕は無い。
私はいとこから、話しを聞いて以来ずっと
この女性を思ってしまう。
あの時、彼女はどう過ごしていたんだろう。
一人、部屋で冥福を祈っていたのか。
葬儀の後、家に戻り仮ごしらえの祭壇の前で、サバサバした表情の
叔母の顔を見ながら、あの女性は同じ時間、何を思っているのだろうかと。
血の繋がった私は、いとこや叔母の側の人間なのに、
その女性に思いをはせてしまう。
2006年07月15日(土)
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