捨てた
ストラップをはずし、捨てた。
人が夢中になっていたり、熱中しているのを見ると冷める。
彼が以前言ったとおりの性格のままだということがわかった。
だから、思ったとおりに何かを言うと
誰からも嫌われ、苛められた。
わかっていたから、出さなくなった。
興味のあるふり、関心のあるふりをして
優しそうにしていた。
だから、私は少しづつよくなっていたのだと勘違いした。
私に嫌われたくない一心で隠していた。
突然、たがが外れることもあった。
だけど最後は、ごめんねと謝った。
私が彼に別れようと言ったのは
私自身がどうしようもなく追い込まれたから。
俺のことを誰よりもわかってくれた。
わかってくれるのは私だけ。
わかっていても、どうすることもできなかった。
わかったからといって、彼を変えることはできなかった。
そして私が悲鳴を上げた。
彼と電話で話し出してすぐに、心臓が踊りだした。
半年振りだった。
去年の10月から徐々に動悸がひどくなり
4ヶ月続き、別れてすぐに治った。
彼を理解することと、私が平常でいられることは別だ。
神経質にピリピリしているのは、慣れたけど
心臓が苦しくなると動けなくなった。
彼を理解することと、受け入れることは別問題だ。
私はその器じゃない。
彼以上にギリギリの線にいる人間なら
彼も驚いて、自分を抑えるかもしれない。
君と知り合って、私は普通の感覚を持つ普通の会話が
新鮮だった。
正直に言うと、戸惑った。
それほど私も異質なものに慣れていた。
同僚・友人・知人と話すとほっとしたのは、
彼との会話に、構えがあったからだ。
私は彼を思う気持ちの大きさで、耐えられないはずなのに
耐えられると勘違いして、そう自分に思い込ませた。
久しぶりに全く波長の違う会話をして戸惑った。
彼が話していると嫌悪感ばかりだった。
彼といたときには「普通じゃない」のに
じゃあ普通ってなんだと気持ちを捻じ伏せた。
彼は自分の状態を誰よりもわかっている。
だけど、わかっているからといってどうすることもできない。
彼と別れた最大の理由は君に愛されたからじゃない。
君との会話で、すっかり忘れていた、私にとっての普通さの
感覚を取り戻したからだ。
彼のこれからを思うと、情けなくなる。
私にできることがあればと、簡単には思わない。
私には、どうすることもできない。
私は今も特殊な環境にいる。
誰とも会話しないのは、文字通り。
例えでも比喩でもない。
君と話す以外は、声すら出さない。
彼といた時は、たくさんの人に囲まれて仕事をし
大勢と話し、自分を隠しながら生きていた。
どちらがいいのかはわからない。
だけど、言えるのは、私の心臓は元に戻り
ガリガリに痩せていた身体は、太りすぎなくらいだ。
彼を憎んだのは、私のいた2年半が無意味だったから。
私のしたことを反故にしたから。
私が消えたせいで彼は捨て鉢になったままだ。
そして私を憎んでいる。
今でも私が彼のもとにいたら、彼は自分を抑え
優しく振る舞い、そして私は壊れてしまっただろう。
彼は言った。
初めて大喧嘩したねと。
喧嘩は初めてじゃないけど、怒鳴りあったのは初めてだ。
彼はいいように受け取った。
私がどんな気持ちになったのか理解していないから
そんなふうに言えたんだ。
私に与えた嫌悪感に気づかない。
私はストラップを捨てた。
2004年08月08日(日)
≪
≫
初日
最新
Copyright(C)2004- you All Right Reserved.