定時脱出
3日ほど前からだと思う。
私も仕事の話しかしなくなった。

あることがきっかけで、君の声が大きくなる。
私がイライラしてるのが伝染したみたい。
私の言い方が、君のしていることを
否定しているように聞こえたんだね。

正直に言ってしまえば
本当は、否定してた。
隠し切れず、言葉の端々に出てしまい、それを感じたんだ。

外の騒音が、むやみに気に触る。
先月まで、何も感じなかった。
平気で眠れた。
なのに、いつのまか、窓を開けて眠れなくなった。
窓を締め切って、音を遮断し、エアコンをつけて眠る。

不満が急速に私の中で膨らんでいく。
すると、今まで気にならなかった些細なことが
どんどん増殖し侵食していく。

   聞こえなかった、なんて言ったの?

小さな声らしい。
呟くように、愚痴を言う。
口から出た途端、言わなければよかったと思う。
だから、私の返事は

   なんでもない。

君も、聞かなくなった。
前は、私が話すまで辛抱強く、言ってみなと繰り返したのに。

私は定時になるのが待ち遠しく、彼も引き止めなくなった。
私は、部屋に来るかどうか聞かなくなり
君も、気をつけて帰ってね、と言うだけになった。

今日でちょうど1週間。
私はずっと一人でいる。
来てもらいたくないから、さっさと帰ってくる。
行ってもいいかなと言われたくないから
あっという間に会社を出る。

今日は、外出した彼から電話があった。
 

  今、帰社途中だけど、適当に帰っていいよ。   

今までの私なら、待っていた。
すぐに帰らなければならない用事はない。
彼が帰って来るのは、何十分も先じゃない。

電話を置いて、時計を見ながらカウントダウンした。
あと、3分。あと1分。
そして定時ジャストに飛び出して
彼の車とすれ違った。

車内の彼は、私を見つけて嬉しそうだった。
私は、悪事がバレた気分で後ろめたかった。

  たった5分、待てなかったの?

私が彼なら、そう言ってた。
なのに彼は、私を見つけて嬉しそうに笑ってた。
だから、彼の代わりに、自分に言った。

 帰社途中だって言ったのに
 たった5分が待てないの?

自分の問いかけに、答えた。

  うん、1分だって、いたくなかった。

2004年07月08日(木)

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