上手
前のときは、毎日、日にちを数えていた。
まだ1週間、まだ1ヶ月、まだ半年。
なのに、ここに来て
季節は春の始まりから、初夏になった。
どこにも行かないまま、部屋と職場と往復する。
それは今も変わらない。
どこかに連れて行ってほしい。
何度かそう頼んで、やっと行ける日が来た。
私は、美味しいケーキが食べたいとか
洒落た店で、食事したいとか
ここでは見られないショップを歩きたいとか
とにかく人のいる繁華街に行きたかった。
じゃあ、駅の周辺を車で通ろう
通るだけ?降りないの?
何もないよ
何もなかった。
人もいなかった。
みんなどこにいるの?
休みの日はどこに出かけるの?
東京や大阪と、一緒にしたらダメだよ。
車が町の中心部を離れ、気がつくと山間部を走り出す。
ねぇ、私・・・山の中、苦手、嫌い・・・
周囲から覆い被さってきて、推し潰されるようで、怖いから。
もう少し、我慢して
ほら、海が見える!
どこに行くか、教えてくれなかった。
楽しみにしてて、すぐにわかるから。
ニコニコしながらそう言ったね。
こんなふうに行き先を知らないまま
ドライブするのは初めてだった。
雑踏や騒音、人いきれ、24時間、眠らない街。
そんなものが恋しかった。
そんな自分が、つまらないヤツに感じたよ。
どうしてカメラを持ってこないの?
あれは商売道具だから、潮にやられると困るでしょ。
ロマンティックに、何も言わず海まで連れて行った君。
現実的なことを、平気で言う君。
私を撮りたくないの?
いつも目の前にいるのに、写真は必要ないでしょ。
いつも いつまでも ずっと
君は本当に、オヤジで現実的で、説教臭い男だ。
だけど、ほんの少しだけ、上手だね。
2004年06月22日(火)
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