昨夜から風が強く今もまだ唸り続けている。
北風とばかり思っていたら東北東の風なのだそうだ。
そのせいか気温はあまり下がらず寒さを感じなかった。
山里は朝から雨となり久しぶりにまとまった雨となる。
畑の作物等には恵みの雨となったことだろう。
雨雲レーダーを見ると四万十市内は降っておらず
山里ばかりの雨だったようだ。やはり高い山があるからだろう。
月曜日の仕事は特に忙しく落ち着きを失くしていたようだ。
大切な書類が見当たらなくなったり通帳を忘れてATMに行ったり。
あれもこれもと急いでしまうとついミスをしてしまうものだ。
来客は若い頃に憧れていたY君であった。
昔は会話も叶わなかったのに今は何でも話せるのが不思議である。
農家なので長靴と作業着の時が多かったが
今日はいかにも秋らしい薄手のセーターを着ていてよく似合っていた。
70歳らしくそれなりに白髪も目立つが凛々しい顔は昔と変わらない。
「いい男だな」と思うと年甲斐もなく胸がドキドキするのだった。
当時の私の恋心に気づいていたかは定かではないが
私は封印出来ずにいる。彼はいつまで経っても憧れの人であった。
午後には仕事が一段落していたので2時半過ぎに退社する。
FMラジオは「園まり」特集でおどろくほど古い。
今の若者が知る由もない。すっかり高齢者向きである。
「夢は夜ひらく」が流れていた。歌詞をしっかりと憶えていたのだった。
私が10歳の子供の頃の歌である。きっと母が好きだったのだろう。
母ばかりではなく父も歌が好きで我が家にはステレオがあった。
嘘と知りつつ愛したの。あなたひとりが命なの。
口ずさんでいて母に叱られたことを一気に思い出した。
家にはレコードがたくさんあって聴き放題だったのだ。
当時の母はまだ28歳の若さであった。
夢もあっただろうと思う。やりたいこともいっぱい。
そんな母が恋をしてしまったことをどうして責められようか。
人生の歯車が狂ってしまってもう後戻り出来なくなったのだろうと思う。
けれどももう過ぎ去った事であり母ももうこの世にいない。
母が生きていたとしてもそれは「禁句」であった。
夢はほんとうに夜ひらくのだろうか。
恋とは無縁の老いた我が身を何か得体の知れないものが襲って来る。
逃げなくてはいけない。振り向いてはいけない。
私の夢が夜にひらくことは決してありはしない。
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