ぐんと冷え込んだ朝。空にはレモンのような月がほっこりと微笑む。
夜明け前のひと時はもう私にはなくてはならず
こころと向き合い言葉を綴るとても愛しい時間になってしまっていた。
たいしたことは書けない。それでも向き合っていると
まるで一粒の種のようにそれが水を欲しがり芽を出したがるのだった。
咲けない花だとわかっていてもどうして見捨てられようか。
そうして64歳になる。自分からはそれを言い出せずにいて
いっそ秘密にしておこうとなんだかとても愉快に思えたのだった。
家族が誰も覚えていないのもまるで喜劇のようで面白いではないか。
ふふピエロみたい。私の演技はずっと夕暮れ時まで続いたのだった。
娘と孫たちが出掛けたきり帰って来ないので
いったい何処に行ったのかと心配していたら
リボンで飾った鉢植えの花を抱えて帰って来る。
おまけにケーキまで買って来てくれたのだった。
どうやら私のひとり芝居だったようでなんと滑稽なことか
娘たちも秘密にしておこうとこっそり買い物に行っていたらしい。
おかげでとても思いがけないサプライズをいただく。
なんと幸せなことだろう。胸が熱くなり涙があふれそうになる。
それだけではなかった。母からも電話がある。
まさか私の誕生日を覚えているなんて夢にも思っていなかった。
最後は12歳の時だったからもう52年もの歳月が流れている。
母は思い出したのだろうか。それとも決して忘れてはいなかったのか。
今さら母を責める気持ちは毛頭なくただただ感謝の気持ちを伝えた。
母はどれほどの痛みに耐え私を産んでくれたことだろう。
その痛みにくらべれば私の辛い過去などほんの些細なことだと思う。
この幸せを糧にきっと生き永らえてみせましょう。
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