すっきりと爽やかな秋晴れ。山里へ向かう道の銀杏の木が。 昨日よりも今日と色づいているのをはっと仰ぎ見る朝だった。
日中はとても暖かくなり。陽だまりに猫があくびをしていた。 「みぃよ、みぃよ」と勝手に名前をつけて呼んでみたりした。
のどかないちにち。仕事の手を休めてはぼんやりとするのがいい。
お昼休み。年に一度の行商の刃物屋さんが職場に訪れてくれた。 『土佐打刃物』と言って高知の伝統工芸でもあるらしいけれど。 そんじょそこらの包丁とは比べ物にならないほど立派な品だった。
20年くらい前だろうか私も母に買って貰い今も大切にしている。 その時の嬉しかったこと。私も娘に買ってあげる日が来るかな。 まだ幼かった娘の嫁ぐ日のことをふっと思い浮かべたことだった。
「一年が早いですね」そんな世間話を交わしながら私の目は輝く。 今がその時だと思った。サチコもきっと喜んでくれるだろうと思う。
包丁の種類はよくわからないけれど普通のとお魚用とを二丁買った。 ひとつはサチコ用。もうひとつは釣り名人の彼氏用にと奮発をした。
ふたりが肩を並べてお炊事をする姿が目に浮かぶ。母の勝手な妄想。 だとしてもなんと微笑ましいことだろう。すっかりその気の母だった。
包丁は一生もの。これほど暮らしの匂いがするものはないように思う。
暮らす。とうのふたりにはまだ実感もなければ不安なことも多いだろう。 始まってみなければわからないことがたくさんある。少なからず苦労も。
父も母もそんなふたりをいつまでもそっと見守っていきたい。
それが我が家の太陽だったサチコへの恩返しだと思う。
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