春雨の降る朝のこと。玄関を出るなり彼が声をあげる。 「おお、里帰りして来たかよ」一瞬息子君かと思った。
けれどもそれはツバメ君だった。とても思いがけなくって。 もうそんな季節になったのか。今年も帰って来てくれたか。
嬉しくて微笑まずにいられない朝になった。私達の会話を。 首を傾げるようにしながら聴いているふうで。きょとんと。 なんとも言えないくらい可愛らしい顔をしているのだった。
「行って来るね」と声をかけ。絹のように柔らかな雨の中。 ふたり今日も川仕事に出掛ける。雨だからと言って休めず。 もうひとふんばりもふたふんばりもしなければいけなかった。
幸い大雨にはならずにいてくれて。南からの雨風も心地よく。 川辺の枯れた葦の群生に若々しい緑の新芽が真っ直ぐに伸び。 その老いと若さに心が奪われる思いだった。見せてあげたい。 ふっと思い浮かぶひと。この場所に連れて来てあげたいものだ。
午後には雨もやみひたすら水の匂いが漂う。がんばるツバメ君。 古巣の修復作業に精を出している様子を。そっと窓から見守る。
いまは独りぼっち。けれどもすぐにもう一羽に会えることだろう。 そうして卵のこと。無事に生まれてくれるだろう雛たちを想った。
ながいながい旅の途中。くるしいこともたくさんあったことだろう。 おかえりなさい。我が家のことを忘れずにいてくれてありがとうね。
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