| 2008年02月14日(木) |
追憶というなの今日という日 |
北風が冷たい一日。立ち向かわず少し俯くのがいい。
そうすると思いがけない緑にあえる。枯れ草のなか。
よもぎ。犬のようにくんくんとしたくなる。草もち。
むくむくっと聞える。土の中から誰かが呼んでいる。
こえ。耳を澄ますとそれが息。その息に手のひらを。
そっとしよう。感じたままにもっと素直に微笑もう。

午後。家中にチーズの匂い。サチコがチーズケーキを焼いていた。 なんと炊飯器のなかにケーキがあるのでびっくり。でもふっくら。 炊きたてのケーキを味見する。熱々のケーキなんて初めてだった。
でも冷ましているうちにだんだんしぼむ。今年も失敗だったよう。 チョコクッキーも。オーブンの中で焦げくさい。あーあーと嘆く。
だけど。その失敗作も愛嬌だと言って。綺麗にラッピングしていた。 若いって可愛いもんだなって母は思う。てへへって笑ってにっこり。
母も。すんごい昔のことだけど。バレンタインの思い出っていうのが。 ちゃんとある。何十年経っても忘れられない。苦いような甘いような。
紙テープに手紙を書いた。何色のテープだったのかは忘れてしまった。 けれど。くるくるしてるのを少しずつほどきながら。せっせと書いた。 途中で破れたら元も子もないから。すごい慎重に心を込めて書いたんだ。
なんて書いたのかな。もう忘れてしまった。思い出せたらいいなあ・・。
やっと最後の芯のところまで書き終わって。やったぁって思ったっけ。 そしてそれを元通りに巻き戻す。綺麗に巻けない。何度もやり直した。
グリコのアーモンドチョコだったかな。自分が好きなのにしてしまう。 放課後に渡そうと思った。でもどうしても渡すことが出来なくって。 とうとう意を決してそのひとの家まで行った。一言も話せず仕舞いで。 玄関で押し付けるように差し出し。逃げるように路地を走って帰った。
三日後ぐらいだったろうか。すごい大変なことが起こってしまったのは。
緊急のPTA会が開かれたらしい。明くる日私は職員室へ呼ばれた。 「コドモが何やってるんだ!コドモのくせに・・コドモのくせに」って。 担任の先生にすごい叱られた。悲しかった。すごい悔しくてたまらない。
好きなのに好きって伝えるのが。どうしていけないことなんだろう。
一生懸命に書いた手紙が。たくさんの父兄の前で晒されたらしい・・。 「こんなもの、こんなもの!」ってそのひとの母親が激怒していたって。 自分の親がその席に欠席していたことが。何よりの救いだとも思った。
でも好きだった。どうしてもそのひとが好きだった。
放課後。体育館でバスケの練習しながら。野球部の練習が見たくて。 たまらない。春には大会があるからきっと応援に行こうって思った。
そして春。思いもかけない悲しくて遣り切れないことが起こる。
彼が転校するのだという。それがすごく遠い。岩手県だって知る。
はりつめたこころ。いまにも破れてしまいそうなこころだった・・。
最後の大会の応援に行く。そのひとが打つ。そのひとが走る。 きらきらとまぶしくてならない。好きなひとってまるで光のようだ。
お引越しの日。初めて言葉をかわした。「手紙ありがとう」って。 言ってくれた。隠していたのをお母さんに見つかったのらしい。
「また手紙書くね」って言って別れる。そうして泣きながら走って。
それが彼に会った最後になった。
それから5年間。岩手と高知を何度か手紙が行き交ったけれど。 私が19歳の時。結婚することになって。それを知らせたとき。
「僕にはもう言葉がなにもありません・・」って葉書が届いた。
「高知大学を受けたけど落ちました・・」って最後に書いてあった。
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