| 2007年06月02日(土) |
優しい雨にあいたくて |
どんよりと空は梅雨の頃のようであり。けれども瀬戸際のところで耐えているらしい。
そんな朝。どこかに出掛けてみるかと彼が言う。 そうだあそこがいい。愛媛の庭園だ。なんだっけあの花は、きっと今が見頃だぞ。
うん、そうねと頷きながら私はしゃべり始める。 去年の今頃だよ。『海猿』観に行ったの。ねえ憶えてる?イオンの店内ぐるぐるして。 あの日ってなんか楽しかったよね。蒸し暑い日でザルそば定食ふたりで食べたよね。
うんうんと彼もうなずく。そしたらちょうどその時。もう耐え切れずに雨が落ちてきた。
ほっとする。どうしてだかそのしゅんかん。わたしはほっとしてしまったのだった。
晴耕雨読っていうよね。ああうんと彼がうなずく。そこでぷつんとふたりが切れていく。
ひとつはきちんと折りたたんで捨てられた五月のカレンダーのよう。 もうひとつはくしゃくしゃに丸められたくずかごの。たぶん五月に違いない紙。
それは見た目にはとてもお互いを尊重しあって。ひとつのカゴに収まっている。
彼はお気に入りの座椅子に深く埋れるようにしながら。特にあてもなくテレビを観る。
私は読みかけの本をめくりながら。『かいじゅう』としばし闘っていた。 週末になるといつも隣家にやってくる怪獣ではなくカイジュウでもなくかいじゅうだ。
それはとても目のくりくりとした愛くるしいかいじゅうなのだけれど。彼女も実は。 別のカイジュウと闘っているのではないかと察する。奇声、嬌声、雄叫びなどなど。
そのほか彼女が得意なのは。ねこふんじゃったの連続50回演奏でもあった。 それが飽きたら。おもちゃの兵隊さんが鍵盤の上を足踏み鳴らしてどこまでも。 どこまでも行進して行くのだ。彼女はお昼寝をしない。とにかく彼女は勇ましい。
私はどうやらもう参っている。神経質ですこしばかりヒステリックでもある。
だけど怒ってはいない。なんとかして彼女を。かいじゅうを愛そうと努力する。 いつだったか窓と窓から彼女に微笑みかけてもみた。けれど彼女は微笑まずに。 あっかんべぇをすると思いっきり窓を閉めてしまったのだ。あれは悲しかった。
だけど決して傷ついてなどいない。彼女の週末がより楽しくあれと願ってもいる。
でも。もうほんとうに私は降参だった。私はいつも負けることを選んでしまう。
炬燵はもう片付けてもいい頃よね。ああうんと彼が頷くけれど。炬燵に足を入れる。 その電源オフの暗い空間は。それが炬燵だった記憶を微かにして、むしろ冷たい。
それが実はゆっくりと人肌のぬくもりになることが。心地良く思えてくるのだった。
六大学野球の早慶戦を観ながらうとうとする。佑ちゃんになったら起こしてねって。 寝言みたいにつぶやきながら。どこかわけのわからない世界に足を踏み入れていく。
そこには。かいじゅうがいない。雨はやまない。雨はどこまでも優しい雨になる。
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